研究課題/領域番号 |
20K13839
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
山田 真由美 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40795126)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 期待される人間像 / 中央教育審議会 / 教育における天皇の問題 / 宗教的情操 |
研究実績の概要 |
前年度に「第一次草案」が執筆されるまでの議論の過程を明らかにしたため、本研究期間においては「第一次草案」をめぐってなされた審議の経過を速記録をもとに検証し、どのようにして「中間草案」の文面に至ったかを明らかにした。前年度から関心を持ってきた「宗教的情操」の問題をはじめ論点は多岐にわたるが、特に注目されたのは次の二点である。 1)「天皇」への言及について 「第一次草案」には「天皇」についての言及はなかったが、「中間草案」では「日本の象徴」という節が新たに加えられ、「われわれは祖国日本を敬愛することが、天皇を敬愛することと一つであることを深く考えるべきである」といった文言が述べられた。このことについて審議の過程を検証し、①「第一次草案」を執筆した主査高坂は、天皇の問題は「難しい」ため「期待される人間像」のなかで言及するべきではないと判断したが、②審議の過程で複数の委員から「天皇」および「日本歴史」に言及するよう強い要望が繰り返し提起されたため、あくまで「象徴」であるという点を強調して言及することになったという経緯が明らかになった。 2)附記を削除したことについて 「第一次草案」では、「附記」として教育活動に関しての具体的なあり方ないしは注意点が書かれていたが、「中間草案」ではこの部分がすべて削除され、「序論 当面する日本人の課題」と「本論 期待される人間像」の二章のみに改訂された。このことについて審議の経過を検証したところ、後期中等教育の具体的な方策を審議した「第20特別委員会」との兼ね合いで、そもそも「第19特別委員会」の目的をどこに見いだすかという根本的な議論がなされていたことが明らかになった。同議論の経過を追ったことにより、「期待される人間像」の位置づけや役割に関して委員のあいだで共通の認識がとれておらず、そのために言及するべき項目が食い違ったことが副次的に明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、今年度も国立公文書館デジタルアーカイブにて公開中の審議録を活用して研究を進めることができた。データ上では解読の難しい箇所に関しても、公文書館の方に電話で対応していただき非常に助かった。使用していたノートパソコンの不具合もあり、手書きの速記録をデータ上で解読し続けることにはかなりの労力を要したが、「中間草案」に至る審議の過程をおおむね検討できたことは、研究の順調な進展と言える。今後の展望ではあるが、「期待される人間像」研究のさらなる進展のために速記録を活字データ化することなどを考えたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は「第一次草案」から「中間草案」にいたる審議の全体的な過程を検証できたため、次年度は審議の過程で立ちあらわれてきた論点とその経過をさらに詳しく検証するとともに、それぞれの委員が「期待される人間像」に込めた思想についても言及していきたい。 特に後者について具体的には、審議の全体を通して宗教的情操の重要性を指摘した平塚益徳の道徳教育論、道徳教育で徳目を掲げることが重要であるとした天野貞祐の道徳教育論、抽象的な人間像ではなく、現在の社会的状況に即した人間像を考えるべきと主張した森戸辰男の道徳教育論などである。 また、「中間草案」の発表後、委員会の審議の席に哲学者の西谷啓治が招聘されていたことが明らかになっため、自身の京都学派研究とも関連してどのような議論がなされたのかについて具体的に検証を進めたい。 さらに、これまでの研究で、松下幸之助、出光佐三、久留島秀三郎の三者が繰り返し「天皇」や「日本歴史(の優越性)」について主張したことが明らかになったため、どのような経緯でこうした面々が審議会の委員に加えられたのかという点に関しても、資料の見つかる限りで調査を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は出席予定の学会がオンライン大会になったため旅費を支出する必要がなく、またコロナウイルスにかかわる移動制限のため資料調査の日程を調整することができなかった。次年度は、今年度までに入手できなかった文献資料の収集に励むとともに、夏季と春季の二回にわたって資料調査の機会をねん出し、今年度に実施できなかった未公開資料の調査研究を進めたい。
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