研究課題/領域番号 |
20K13842
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
平石 晃樹 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (00786626)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レヴィナス / ローゼンツヴァイク / ベンスーサン / 道徳教育 / ユダヤ思想 |
研究実績の概要 |
本研究は、「思考」・「他者」・「対話」という三つの観点から「考え、議論する道徳」という教科化後の道徳教育の基本コンセプトを検討することで、その理論的な基礎づけを目指すものである。本年度は道徳と思考との関連を主題に据え、以下の三点について研究を進めた。 (1) 研究の出発点として、レヴィナスの「無限の観念」やローゼンツヴァイクの「新しい思考」といった現代ユダヤ思想における思考論の読解に取り組んだ。彼らはそれぞれの仕方で、思考を「魂の内的対話」(プラトン)として捉える伝統的な理解を問い直しながら、他人との関係に開かれることとして思考を把握している。思考とは「一者が二者へと打ち砕かれること」(ベンスーサン)であるならば、優れた意味で他人との関係である道徳的経験と思考との間には本質的な関連が見い出されることになる。 (2) 主としてレヴィナスに依拠しながら、思考と批判との内的連関について考察を行った。彼によれば、他人との関係としての思考は、対象的思考であるよりも前に、みずからの素朴さに初めて気づき、それを問いただす、という意味での「批判」という形を取る。道徳科の授業はしばしば「分かりきったことを学ぶ」だけのものと言われるが、道徳と思考は不可分であり、その際の思考は批判という形を取るならば、道徳的思考とはむしろ道徳の「当たり前」の問い直しを含まねばならないことになる。 (3) (2)の研究を受け、日本の道徳教育における定番教材の分析を通じて、批判としての思考が道徳教育の実践者にとって持ちうる意義について検討した。道徳科の定番教材には内容項目についての特定の理解に知らずと誘導する仕掛けが幾重にも張り巡らされているため、「道徳」という名の詐術に騙されていないかを授業実践者はまず疑う必要がある。この研究成果の一部を英語論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCOVID-19感染症の拡大により夏季に予定していた資料調査をキャンセルせざるを得なかった。本年度も状況は好転していないことが見込まれる上に、海外からの文献の取り寄せも平常時より時間がかかるため、資料整備の面で遅れが生じている。 他方、資料調査や出張に割く予定だった時間を文献研究に充てたため、入手した、あるいはすでに手元にある資料の読解作業は順調に進んでいる。結果として、次年度の主題のひとつである歓待論の研究にもすでに部分的に着手できたことはまさに不幸中の幸いである。 以上の「遅れ」と「先取り」を総合的に判断し、上記の判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画にしたがい、次年度は道徳と他者との関連を主題に据え、速やかに成果が公表できるよう努める。予定していたフランスでの資料調査については、COVID-19感染症の状況がどのように拡大・収束を見せるかが引き続き不透明なため、中止または延期の場合となっても対応できるよう計画を見直し準備をしておく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染症の拡大により予定していた文献調査をはじめとする出張が軒並みキャンセルとなってしまい、旅費が大幅に余ったため。次年度以降の感染症拡大状況を注視しつつ出張の計画を見直し、旅費の一部を他者論・対話論関連の図書購入にあてる予定である。
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