本年度は次の2点に取り組んだ。第1に、収集した都道府県の総合教育会議に関するデータの分析に基づき論文を執筆した。分析の結果、平成27年度から令和4年度までの期間を通じて都道府県の総合教育会議の開催回数は減少傾向にあったという知見を得た。そして、今後は少ない回数での現状維持が続くと結論した。その一方で、市町村がこれと同一傾向を示すかについては留保が必要である。 第2に指定都市や中核市といった大規模自治体に関するデータ収集に着手した。上記論文でも指摘したとおり、都道府県と市町村では総合教育会議の運用実態が異なることが想定される。市町村は運用実態の把握が困難かつ、市町村を一括りとすることで、全体像を捉え損なう可能性もあることから、公開データが整備されている大規模自治体から取り組むこととした。
研究期間全体を通じた成果として、地方教育行政制度を委任理論によって捉え直し、地方政治や地方自治において扱われる他の政策領域との比較を可能にしたことが挙げられる。政治的中立性の観点から他の政策領域との比較が十分に行われてこなかったことを踏まえると、その共通点と差異に関する分析が一層進展することが期待される。 また総合教育会議を中心として、新教育委員会制度に関する運用実態の解明を行うことができた。その結果、首長は付与された政策手段を抑制的に行使していることが分かった。加えて、政治家としての首長の存在も重要ではあるが、自治体規模も制度の運用実態に影響を与えていることが分かった。首長に新規に付与された政策手段は、実施時のインパクトが未知であったが、時間の経過に伴う変化と都道府県ごとの共通点や差異を把握する基礎データを整理することができた。今後はその変化を量的・質的に継続的に検討することが必要である。
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