当初の計画では、「『文検英語科』の全体像を明らかにする」ということを掲げた。史料的な側面からは、『文検英語科』を研究するうえで必要な史料を大方集めることができたと思う。一方で、史料の分析については、年度内に十分な成果を挙げることができなかった。試験委員の歴史的な位置づけを明らかにすること自体に難しさがあり、試験委員の学説と試験問題との相関を検討することはさらに困難な作業であった。受験者の分析に至っては、純分に手をつけることができていない。「『文検英語科』の全体像を明らかにする」ことは重要な研究課題であるとはいえ、難しすぎる課題設定であったと思う。今後は、これまで集めた史料をもとに、検討を進めていきたい。 しかしながら、一部とはいえ満足な成果を挙げた部分もある。それは、長らく試験委員を務めた神田乃武の歴史的な位置づけについてである。神田は明治・大正期の英学界を代表する人物であり、「文検英語科」においても30年以上にわたって試験委員を務めた。その一方で、これまでの研究において神田は、「ナチュラル・メソッド」という曖昧な概念で把握され、その位置づけについても不明確であった。この度の研究では、神田については、ほぼ全ての著作物を入手し、日記等も利用することで、「ナチュラル・メソッド」による把握を超えた、新しい神田像を結ぶことができたと考えている。新しい神田像に基づいた今後の検討によって、「文検英語科」試験問題の読解、ひいては英語教育史像そのものを更新することができると期待している。
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