本研究の目的は、南アフリカ共和国(以下、南ア)を事例として、共生教育におけるナショナルな基準と多様な実践の折衷点を探索することであった。最終年度の2023年度は、文献研究と南アでの調査研究(フィールドワーク)を実施した。文献研究では、共生教育に関わる理論的検討とともに、南アの学校で共生教育を担う教科であるLife Orientationや歴史科の教科書を分析・考察した。また、調査研究では、2023年6月に南ア西ケープ州の教育省と中等教育段階の学校にて、州教育省行政官1名と教育者3名を対象としたインタヴュー調査を実施した。 研究期間全体を通じて、2019年末より世界中で蔓延した新型コロナウイルス感染症の影響により南アへの渡航が困難となった中、当初の計画を大幅に変更しつつ可能な方策を模索しながら研究を遂行した。具体的には、南アへの渡航が困難な期間は、共生教育に関わる理論的検討のための文献研究、南アの政府文書、ナショナルなカリキュラムや試験、学校教科書の分析・考察を実施した。そして、2022年度には南アにて学校教科書等の資料収集を実施し、2023年度には同国でのフィールドワークを実施することでコロナ禍以後の南アの中等教育段階における共生教育を探索した。 本研究は、共生教育におけるナショナルな基準と多様な実践の折衷点を探索するために、同教育に関わる理論的検討により既存の議論の到達点と限界を整理しつつ、既存の議論をより精緻化するために南アを具体的事例とした探索を行った点に意義がある。そして、現代の南アの学校における共生教育を多角的に探索するために、政府文書、ナショナルなカリキュラムや試験、学校教科書の探索を通じて全体像を描き出すと同時に、コロナ禍以後の南アの州教育省や学校で共生教育に携わる人々の認識の探索を通じて、現実の事象をもとに共生教育に関わる理論の考察を深めた点に重要性がある。
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