研究課題
4年目にあたる令和5年度は、3年目に開始したケニアで急増している生徒による学校放火事件を対象とした研究に取り組んだ。学校放火に関する報道資料および裁判所が公開する判例集の収集と分析を進め、その成果を論文にまとめた。本分析においては、学校放火事件を生徒による政治的主張行為のひとつとしてとらえ、なぜ放火が起こるのかその特徴についての検討を進めた。本分析の結果は、次の3点にまとめられる。第一に、放火は複数生徒が学校への主張を共有している場合に生じやすいこと、第二に、学生寮が被害を受けるものの意図的に他生徒を殺傷するリスクは軽減されていること、第三に、放火の背景には生徒自身の権利や居場所を脅かされることに対する不安があること、である。以上を踏まえ本研究では、学校教育に伴う近代を象徴する装置が、放火を誘発する一要因ではないかと導いた。よって、ケニアの学校放火は、若年層の個別の暴力や生徒の規律の乱れによって生じるものと捉えるよりも、寮制校や権威主義といった閉鎖的空間に対する抵抗、ひいては、近代学校という制度に対する社会的な抵抗として捉えるほうが妥当ではないかと提起した。また、5年間分の試験問題(社会系の3科目)の分析を通して、ケニアにおいて、どのように善や正義、公正が認識されているかを検討し、その成果を書籍および論文にて公開した。公正性に関連するさまざまなトピックの扱いに焦点を当てた結果、ケニアにおいては、民族、ジェンダー、人種といったテーマと比較して、経済格差の問題に重点が置かれていることが明らかとなった。また、自由競争よりも社会福祉や相互扶助がかなり重視されていることが明らかとなり、ケニア独自に正義や公正に関する概念が定義されていることを指摘した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画とは異なるものの、分析対象を変えたうえで研究をおおむね順調に進めることができている。研究成果も、学会や論文、書籍などを通して順調に公開するに至っている。
オンラインで入手可能な資料の収集がおおむね完了しているため、現地調査の再開を予定している。得られたデータの分析を踏まえて、学会での分析結果の発表、そして論文の執筆につなげていきたい。
諸事情に伴い4月から8月にかけて一時的に研究を中断していたため、当初の予定より今年度の研究期間は短く支出も少なくなった。また、上記の都合に伴いケニアでの現地調査が制限され、国内・国際学会での口頭発表の機会も限られたことから、旅費の支出が少なかった。本研究は、期間を1年間延長しており、当該年度に遂行できなかった研究課題については、翌年度に繰り越す予定である。次年度は、現地調査を再開し、学会発表の機会を確保したいと考えているため、それにより旅費の支出が増加する予定である。また、英語での研究成果公開のため、英文校正に必要な費用にも充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Andrzej Klimczuk and Delali Dovie (Eds.) Bridging Social Inequality Gaps - Concepts, Theories, Methods, and Tools.
巻: - ページ: -
比較教育学研究
巻: 68 ページ: 165-182
共生学研究
巻: 1 ページ: 224-250
澤村信英・小川未空・坂上勝基 編著(2023)『SDGs時代にみる教育の普遍化と格差―各国の事例と国際比較から読み解く―』
巻: - ページ: 220-238