研究課題/領域番号 |
20K13923
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研究機関 | 大月短期大学 |
研究代表者 |
中村 知世 大月短期大学, 経済科, 准教授 (40783725)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | トラッキング / 高校再編整備 / 地元定着 / 地方教育行政 |
研究実績の概要 |
本研究は、公立高校の再編整備が既存の「高卒進路トラック」とどのような関係にあるのかを明らかにする。そこで3つの課題を設定した。1つ目が大学進学をめぐる高校生の進路選択や地域移動、それに関連する教育政策史等の先行研究の整理である。2つ目は戦後から高校拡大期(1980年代ころ)までの地方教育行政による進路トラックの整備に関する分析である。そして3つ目に公立高校数が縮小していく1990年代以降の地方教育行政による進路トラックの整備に関する分析である。 2021年度は2020年度に引き続き主に1つ目と3つ目の課題に取り組んだ。1つ目について特に取り組んだのが、「地方教育行政が高卒進路トラックの整備へ関与するようになったのはいつからか」という問いである。天野(1991)は戦前の学歴主義社会の成立に「学校教育体系のシステム化」をとらえている。このシステム化という政策的動きが、高卒進路トラックの整備の始まりとみなせば、そこにおいて地方教育行政がどの程度裁量を持っていたのかが重要となる。そこで2021年度は近代学校教育制度成立以後の地方教育行政の基本構造を整理してきた。その結果、「学校教育体系のシステム化」はほとんど中央政府が主導したものであり、地方教育行政の裁量は中央が規定する枠組みの中でのみ発揮される、すなわちどこにどのくらい学校を設置するか、という点に限られていたことがわかった。 3つ目は本調査計画の妥当性を確実にするために、東北6県に対象を絞り込み、データベースの作成作業を進めた。データベースには各高校の1985年・2005年・2019年付近時点の、学科別生徒数、県内/県外就職者数、県内/県外進学者数のデータを入力中である。また、その間に学校統廃合が行われているので、統廃合関係も調査し、整理した。なお、データベース作成作業継続中のため、2021年度に公表済みの研究成果はない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3つの課題を設定したが、1つ目について、近年の状況に関する先行研究はフォローできているが、戦前の状況について調べを進めている段階である。戦前の地方教育行政の構造と高校教育政策への関与について整理が済んだものの、まだ確信的な状況には至っておらず引き続き取り組む必要がある。他方で新たな進捗として、本研究の理論的な位置づけについても構想が膨らみつつある。本研究は「高卒トラックの再編研究」と一言でまとめることができるが、社会学の潮流のなかで、どのような議論と接合できるのか、検討してきたところである。本研究は人口減少期の地方自治体が「高校生」という資源を「外」に出すか「内」に留めるかの調整役となり、その資源が管理されている場所である学校をどのように配置し直すかというところで、人口政策に取り組んでいるという側面があるのではないかと見ている。こうした地方の動きを国家再編の動きとともにとらえるという視点も、2021年度の研究によって得られたところである。 3つ目については一部の分析県のデータが出そろいつつあり、先行的な分析を行える段階にたどり着いている。データベースを作成するうえで、各学校の学科別の卒業者数情報が掲載されている資料が見つかり、青森県教育委員会からは学校基本調査の学校別データを提供してもらうなど、非常に貴重なデータが集められている。高校再編整備の状況については、これまで学科別や都道府県別などの情報でしか把握されていないが、学校の特性別による再編整備状況を浮き彫りにできるデータベースが完成しつつある。 2つ目については現在のところ、予定通りではあるがまだ手を付けられていない状況である。全体としてはデータ面、理論面ともに着実に前進していると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、データ分析を一部進めていく。現在、青森県のデータや再編関係資料が精緻に出そろっているため、青森県について先行して分析を進めることにしたい。当初計画では、36県を分析対象とし、36県のデータベースを一挙に作成する予定としていたが、さまざまな行政資料、データ入力等を進めるうちに、例えば再編計画の策定時期にかなりのずれがあること、生徒の地域移動の構造に都道府県間で大きな違いがあることを考慮に入れる必要に気づいた。そのため、計画を変更し、まずはデータのアクセスの面で問題がない青森県を先行的に分析することにした。分析結果は2022年9月の日本教育社会学会にて発表予定である。また、青森県の分析と並行し、データベースの作成作業を進めていく。 2つ目の課題にも着手していく。戦後から1980年代ころまでの各地方教育行政による進路トラックの整備に関する一次資料の収集を進めていきたい。また、3つ目の課題のなかには、都道府県財政における教育費支出のデータを踏まえた変数の入力というタスクを設定しているが、この変数作成のための行政資料の収集もスタートさせていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は出産をし育児休暇を取得した関係で2021年10月16日~2022年1月31日の約3ヵ月半、研究中断をした。そのため、この期間に本来使用するはずであった額(当初25万円程度を予想)を次年度に繰り越すことにし、その繰越金を前提に、2022年度は交付申請書に記載していた600,000円から減額し、350,000円の請求としている。したがって、次年度繰越金と合算すれば当初の請求を予定していた600,000円を確保できるため、研究は計画通りに実行する予定である。
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