研究課題/領域番号 |
20K13928
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
奥村 明美 浜松医科大学, 子どものこころの発達研究センター, 特任助教 (40767943)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 子ども / 睡眠 / 適応行動 / 発達 / 出生コホート / 就寝時刻 / 睡眠時間 |
研究実績の概要 |
本研究のプラットホームとなる浜松母と子の出生コホート(Hamamatsu Birth Cohort Study; HBC Study)は、妊娠期にリクルートした母親とその児1258名を対象とした多目的出生コホートである。児の出生後、直接面接による発達評価を縦断的に繰り返しており、すでに研究開始から13年が経過している。 申請者らは、HBC Studyのデータを用いた縦断研究から、生後10カ月で就寝時刻が遅い群 (22:00以降)は、標準的な群 (20:30-22:00)と比べて生後10カ月から32カ月にかけての表出言語の発達が遅れる関連を見出し、乳児期の遅い就寝は睡眠時間や交絡因子を統制してもなお、その後の幼児期の発達に与える縦断的な負の影響を初めて示した(Okumura et al., In preparation)。 本研究では、乳幼児期の不良な睡眠習慣、特に遅い就寝習慣とその後の適応行動との関連について、学齢期、思春期までの縦断的な追跡を継続し、発達に及ぼす長期的な影響を明らかにすることを目的としている。 2020年度は、対象者の9歳時の発達検査を完了し、全数について睡眠と適応行動の評価とデータ入力を終えた。就寝時刻と睡眠時間の平均(標準偏差)は、それぞれ21時23分(38分)、8.88時間(0.58時間)であり、国内の他の調査と大きく乖離しない結果であった。適応行動の評価については、今後スコアを標準化し、統計解析により睡眠習慣との関連を調べ、特に幼少期からの睡眠習慣の変化と学齢期の適応行動との関連について明らかにしていく。 2021年度からは新たに13歳時の発達検査を開始できる見通しとなった。HBC Study対象者の睡眠習慣と児の発達をさらに追跡して評価していくことで、睡眠と発達の長期的な関連についてもさらに検討を加えていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度に計画していた9歳時の検査については、予定通り施行することができ、すべての対象者の評価を完了した(N=840)。全数についてデータ入力も済んだことから、2021年は睡眠と適応行動との関連について統計解析に進む予定であり、申請時のスケジュールに従って、おおむね順調に進展している。 データの収集と追跡については、新たに追加する13歳時での発達検査について、2020年度にパイロットスタディを終え、2021年度に本格的に始動する環境は整った。対象者が13歳になるのに合わせて、順次発達検査を進めていく。個人情報保護を含む倫理的な観点から、コホートに参加する対象者には、これまでの追跡調査について承諾を得ていることに加え、本研究内容についても説明を行い、承諾を得て協力を依頼する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の計画通りに、データ収集は順調に進んでいることから、2021年度はこれまで得たデータをもとに、幼少期の不良な睡眠習慣が、学齢期、思春期の長期的な適応行動にも影響を及ぼすのか、それとも就寝時刻の改善で修復され得るのかを検証するために、統計解析を進めていく。 睡眠は、養育環境、生活習慣により経時的に変化し、1時点の評価では成長にともなう就寝時刻の変化を考慮できない。本研究では、すでにデータを得た生後10カ月、32カ月、9歳における睡眠の評価に加え、13歳時点でも追跡して測定し、子どもの成長期における就寝時刻の経時的変化をとらえる。また、メインアウトカムである適応行動は、Vineland-Ⅱ適応行動尺度を用いて評価し、生後32カ月、9歳時の測定に加え、新たに13歳でも測定する。Vineland-Ⅱはコミュニケーション、日常生活スキル、社会性、運動スキルの4領域で適応行動を評価できる尺度である。コミュニケーション領域では受容言語、表出言語、読み書き、運動スキルでは粗大運動、微細運動の下位領域で構成されており、神経発達評価の側面も評価できる。3時点で測定を繰り返すことで、適応行動の縦断的な発達の軌跡と睡眠との関連ついても検討が可能である。 2021年度は、0歳から9歳までの睡眠習慣の変化、特に遅い就寝と9歳での適応行動の発達との関連を統計解析を用いて調べる。3時点で測定した0歳から9歳の就寝時刻変化の軌跡を潜在クラス分析により特定し、9歳時の適応行動との関連を検討する。研究デザインやデータ解析の手法については、疫学統計学を専門とする研究協力者とのディスカッションを進行中である。 データの取得については、13-14歳となるHBC study参加者を対象に、直接面接、またはリモート面接により発達検査を継続していくことで、約200名の睡眠、および適応行動の測定をする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は研究参加者約200名分の謝礼を予算に見込んでいたが、他の研究費からの適用が可能となった。2021年度は次年度使用額と翌年度分として請求した助成金から、新たに施行する13歳向け発達検査約200名分の謝礼として使用する予定である。また、データ解析が本格化することから、パソコンおよび統計ソフトの購入を予定している。
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