本研究の主題は,大学における教員養成が始まった戦後期における幼稚園教員養成の実態を明らかにすることである。本年度は幼稚園教員養成のための専門科目である「保育内容の研究」がどのように出発したのかを明らかにするために,特に1955(昭和30)年の教員養成学部教官研究集会幼稚園部会に焦点をあて検討した。 研究集会においては「保育内容の研究」の6単位の内訳や扱うべき内容が議論された。単位内訳は明確には定まらなかったが,幼稚園教育の独自性や領域の特性を考慮して養成課程で「幼稚園教育総論」を扱うこと,「総論」の内容は教育や心理の科目で扱うべきであるが,難しい場合は「保育内容の研究」の中において,必ず履修させる重要なものであること,扱うべき内容の具体が定まった。また,参加者全員が一定程度賛成できる妥協点として6領域の「各論」で扱うべき内容を検討することとなり,幼稚園教育要領の「領域」について扱う場合に盛り込むべき内容項目が定まった。現在でも一般的な,領域毎に科目を開講する保育者養成におけるカリキュラム編成の出発点の議論を研究集会にみることができたが,当時の議論においては,領域毎に科目を開設し均等に履修させることが,幼稚園教員の専門性養成として必ずしも理想的なものと考えられていたわけではないことが明らかになった。 この研究成果の詳細は,日本保育学会の学会誌に論文掲載が決定しており,多くの保育学関係者に成果を公開できる予定である。 補助事業期間全体における本研究の意義は,歴史研究の立場から幼稚園教員の質的向上という現代的課題に応える基盤を用意できることであった。上記のような成果から一定程度達成できたと考えるが,当時の大学,短期大学,指定教員養成機関のカリキュラムの具体についての事例研究は今後も課題である。この課題についても科研費採択が決まっているため,引き続き研究を深化させていく予定である。
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