最終年度の研究成果は三つある。第一に、1900年前後の岡山孤児院における看護と病気について看護婦の経歴と仕事に着目して明らかにした。岡山孤児院の看護婦は、子どもの病気に対する看護の中心を担っていた。同時に年長の女子たちは看護の仕事を支え、何人かは卒院後に専門知識を学び看護婦になった。看護とは岡山孤児院が必要とする技術であったと同時に、孤児院卒業女性の専門職になるための限られた教育機会と進路であった。女性職員と女子が看護を担っていたことは、孤児院における母性規範を示している。 第二に、教育学者の持田栄一が1970年前後に公教育運営に親が直接参与するための理論を、国分寺市の母親たちの学習活動によって具体化したことを明らかにした。この取り組みは母親が公教育運営に参加していく事例であり、女性が公的領域で男性より従属的地位に置かれる母性規範が相対化され得る可能性を示した。第三に、公共性をはぐくむ幼児教育に関わる日本の政策と実践を検討した。 あわせて二つの学会シンポジウムでコメントと報告をした。2022年の単著をふまえて、子ども福祉施設と幼児教育を再考するアナーキズムとフェミニズムの可能性を提案した。 キャサリン・ウノの“Passages to Modenity(近代への諸経路)”については、日本の子ども観の歴史に関する英語圏の先駆的研究と指摘する英語文献を見つけた。同時にこの間の研究でその意義と内容を紹介してきた。 研究期間全体を通じて、単著を刊行し論文と資料紹介、書評を執筆した。岡山孤児院以外の子ども福祉施設については十分に検討できなかったものの、単著では可能な限り子ども福祉施設と幼児教育施設の情報を記載した。関連する研究成果を2024年度に公表する。
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