現在、小学校では低学年のいじめが増加していると言われているが、そのような小学生同士の葛藤をどのように理解し指導するかは教育上重要な課題である。この点で示唆に富むのは、小学校以上の学校段階で「いじめ」として捉えられる子ども間の葛藤が、就学前の幼児教育段階では「いざこざ」と捉えられることが多いことである。幼稚園では子ども間の葛藤はしばしば「いざこざ」として把握され、子どもの発達上の重要な機会と捉えられて指導の対象とされる。これに対して小学校では、子どもの間の葛藤は「いじめ」として把握される傾向が強く、問題行動の1つとして指導の対象に付される。本研究では教育問題の社会構築主義に基づいて、両学校段階における子ども間の葛藤に関する教育言説の構成の違いに着目し、その言説の構築過程に関する時系列的分析、ならびにその言説に枠づけられた各組織における子ども間の葛藤への指導のあり方を比較分析することを目的としている。 子ども間の葛藤に関する教育言説の構築のされ方が幼稚園と小学校でどのように異なっているのかについて、各学校段階の行政関係書類、教育関係雑誌や、研究論文などに基づき検討し、分析の視点や論点を整理した。とりわけ注目すべき点は、幼児に関する「いざこざ」の研究が登場するのは1982年であり、これは小学校以上の段階で「いじめ」言説が浸透するのとほぼ同時期である。教育問題に関する種々の分析では、1970年代半ばが問題の1つの転機とされることが多いが、実は幼児の「いざこざ」言説の登場もその時期に重なることが予想される。このことを1つの手がかりとして、1970年代半ばまでとそれ以降において、子ども間の葛藤に関する教育言説が学校段階の違いに応じてどのように編成されてきたのかについて探究を進めていく。
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