研究課題/領域番号 |
20K13974
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鎌田 英一郎 長崎大学, 教育学部, 准教授 (00780735)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 技術科 / 生物育成 / 栽培 / 教材開発 / 課題設定 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は技術科(生物育成の技術)において課題設定における生徒の実態を調査し,生物育成における課題設定の課題を明らかにすることに加え,課題設定における効果的な教材を提案するとともに,その指導方法を検討,確立することを目的としている。 生徒の実態調査では,現場教員2名へのインタビュー調査を実施した。平成29年告示の中学校学習指導要領解説技術・家庭編(技術分野)B生物育成の技術において,課題設定には,生活や社会の中から生物の育成環境の調節等に関わる問題を見いだして課題を設定する力,課題の解決策を,条件を踏まえて構想し,作業計画表等に表す力が挙げられている。インタビューでは,課題設定において,目標の設定として大きさ,数量,環境,安定など複数の選択肢から栽培の目標を選択させていた。また,授業ではその目標を達成するための栽培計画を立てるとともに,用いる肥料を化学肥料と有機質肥料のどちらかを選択させていた。このことから「生活や社会の中から生物の育成環境の調節等に関わる問題を見いだして課題を設定する力」においては,いくつかの選択肢から生徒が選択し,その目標に向かって「課題の解決策を,条件を踏まえて構想し,作業計画表等に表す力」を育成させようとする教師の意図が読み取れた。ジャガイモの栽培を題材とした授業では,生徒が選択した目標として,大きなイモを収穫することが最も多く,次いで安全性に配慮すること,安定した収穫を確保することであった。2番目に大事にする目標では,安定した収穫を確保すること,次いで数量をたくさん収穫することであった。課題設定では,収量や安全性に着目する生徒が多く,これらを課題設定の軸とすることに加え,収量増加のための技術を取り上げ,その技術のメリット・デメリットに迫ることが課題設定後の展開の指導の在り方として重要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,現場教員へのインタビュー調査とともに,ロールプレイ型教材とカードゲーム型教材を提示した。ロールプレイ型教材では,選択肢が多いことから生徒が戸惑うことが予想され,初めて聞く用語や写真や図がないためにイメージしにくい選択肢があり,適切に活動が行えないことが課題として指摘された。また,ある程度知識がないと活動しにくく,正解も分からないことから「活用しにくい」「実際の生徒を対象にしたときの実践のイメージができない」等の指摘をいただいた。カードゲーム型教材では,A中学校3クラス計95名の生徒を対象に実践授業を行い,事後アンケートを実施した。実践授業ではカードゲーム型教材が生徒がグループ内で進んで対話し活動することができ,農薬の安全な使用方法を学べる教材であるとともに,農薬が作物生産に欠かせないことや農薬にはメリット・デメリットがあることに気付ける教材であることが明らかとなった。また,中学校学習指導要領解説技術・家庭編(技術分野)の学習過程における本教材の位置づけを議論し,効果的な活用方法や具体的な学習場面,利用過程を見いだすことができた。 本研究ではゲーム型教材の開発に加え,施肥時期および施肥量の適期を思考・判断できる教材を研究開発している。教材開発における試験ではコムギとオオムギの容器栽培を行い,施肥時期および施肥量の違いによる栽培特性を明らかにすることを目的に比較実験した。その結果,同じ施肥量であっても施肥のタイミングを考慮することで収量が異なり,作物の生育に応じた施肥の重要性,また不適切な施肥が環境負荷やコスト,肥料の無駄につながることついて考えることができる教材となりえることが示唆された。 新型コロナウイルスの影響により対面による授業参観,インタビュー調査ができなかった。次年度はオンライン等を活用し現場教員への聞き取りを行いながら,さらに生徒の実態を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は,現場教員への聞き取り調査の実施,ロールプレイ型およびカードゲーム型教材の開発,ムギ類の容器栽培の教材化の検討を予定している。 現場教員への聞き取り調査では,定期的にミーティングを開催し,技術科(生物育成の技術)の授業における生徒の実態,教師の課題設定場面における授業計画およびその意図について明らかにする。課題設定場面のワークシートにおける生徒の記述内容から課題設定時の着眼点を明らかにするとともに,課題設定場面の指導の実際を明らかにする。本調査をもとに教師,生徒の双方が技術科の学習指導要領に沿った課題設定を容易にするための指導の在り方および効果的なワークシートの検討を行う。 ロールプレイ型およびカードゲーム型教材の開発では,さらに検証授業を進める。カードゲーム型教材の事後調査から技術分野の学習過程における課題設定の前の過程である「既存の技術の理解」において活用できることが示唆された。本教材の有効性をさらに明確にするとともに,課題設定とのつながりについて現場教員と協議し,学習過程の在り方,教材の位置づけについて検討する。 ムギ類の容器栽培では,本年度の比較試験より同じ施肥量であっても施肥時期や施肥量の軽重によって収量が異なることが明らかとなり,不適切な施肥が環境負荷やコスト,肥料の無駄につながることついて考えることができる教材となりえることが明らかとなった。この試験結果を教材として,視覚化するなどし提示資料を作成する。できた教材は現場教員と協議し,教育効果および活用方法を検討する。本試験では,加えて土壌調査を実施している。電気伝導度および硝酸態窒素量を追調査することで容器内に残留している養分量を明らかにし,効率的な肥料方法を考える教材を作成する。 さらに,上記を踏まえた技術科(生物育成の技術)の指導方法の在り方を確立させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により,学会がオンラインとなり,旅費の使用ができなかった。また,実践授業の参観および現場教員への聞き取りが困難となり,学校現場への出張が中止となった。そのため,旅費の支出が0となった。 次年度は,研究結果の発表における学会への参加,実践授業等への参加の旅費に充てるよう計画している。一方,次年度以降も新型コロナウイルスの感染拡大の終息の兆しが見えず,学会のオンライン化,実践授業校への受入困難な場合は,オンライン化への対応および協力教員との連携を図る情報機器等の拡充に充てる。さらに,実践授業における環境整備,授業で必要となる物品の購入などデータ収集をより確実なものにするために使用する。
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