本研究では,第一に小学校理科および中学校・高等学校理科において批判的思考の3側面規定に基づく批判的思考態度尺度を開発するとともに,その妥当性と信頼性を検証することを目的とした。第二に開発した尺度を用いて批判的思考の発達過程を明らかにし,その知見に基づいた学習指導法の考案や教材の開発を行うことを目的とした。 上記の目的を達成するため,三年目では,高等学校物理における批判的思考力育成のための指導法を考案し,その効果検証を行った。具体的には,第1学年の物理基礎「力学的エネルギー」の単元において,振り子の張力が力学的エネルギーに及ぼす影響について批判的に考えさせる活動として,外力がはたらいている場合に力学的エネルギー保存の法則が成り立つことについて実験結果と既習内容の矛盾点について議論させるという指導法を取り入れた授業を行った。考案した指導法の効果を検証するため,一年目の研究にて開発した「批判的思考発達検討質問紙」を用いて,授業実践の前後での批判的思考態度を測定し,統計的手法によりその変容を調査した。その結果,考案した指導法によって,理科における批判的思考態度のうち「目的と手段の合理性」「反省的側面」の各因子に有意な上昇傾向が見られたことが明らかとなった。 研究期間全体を通しては,まず一年目に,理科における批判的思考の発達過程を調査し,初等教育段階および中等教育段階における発達過程を明らかにすることができた。また,その知見に基づき,二年目は小学校理科,三年目は高等学校物理において指導法を考案し,授業実践を通してその効果検証を行うことができた。成果の公表については,一年目に得られた成果を査読付き論文誌「理科教育学研究」へ掲載できたとともに,現在は二年目以降の研究で得られた成果について論文にまとめ,学術学会誌への投稿を行っている最中である。
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