研究課題/領域番号 |
20K13981
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研究機関 | 共栄大学 |
研究代表者 |
井ノ口 和子 共栄大学, 教育学部, 教授 (80806703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 図画工作科 / 見る / 鑑賞活動 |
研究実績の概要 |
研究初年度となる2020年度の研究実績は、以下の2点である。 第一に、初等教員養成課程における初等教科教育法(図画工作)の授業実践を基に、学生が子どもの作品をどのように〈見る〉のかについて分析・考察をした。学生が作品を〈見る〉視点の特徴として、子どもの「表したいこと」を理解しようとする傾向が強いことが確認された。一方で、具体的な造形行為やプロセス、造形要素(形や色など)を〈見る〉視点は十分に確立されていない。子どもの「表したいこと」を理解しようとする〈見る〉視点は、指導者としての重要な一つの見方ではある。しかし、子どもの〈見る〉は、表現者(作者)の意図を読み解くだけではない。作品に表された形や色、造形プロセスなどに着目することで、その作品や表現に自分なりの意味や価値を付与する活動である。図画工作科における鑑賞活動を指導する教員の〈見る〉視点が豊かなものでなければ、子どもたちへの十分な指導は期待できない。作品を〈見る〉視点として、造形要素(形や色など)を具体的に示すことで学生の〈見る〉視点は広がると考えられる。研究の詳細は、拙論「『子どもの絵』を〈見る〉ことに関する考察-初等教科教育法(図画工作)の授業実践を通して-」(大学美術教育学会「美術教育学研究」第53号(2021), pp.33-40)に示した。 第二に、美術館における教育活動の進め方について考察した。特に、本年度はオンラインを活用した〈見る〉についての活動が美術館から提案された。これまで、美術館での鑑賞活動は、実際に作品を〈見る〉ことを中心としてきた。実際に作品に向き合う〈見る〉活動は、美術館での鑑賞活動の基本である。一方で、オンラインを活用した〈見る〉は、これまで美術館を訪れることが難しかった子どもたちの学習に有効であり、図画工作科における子どもの〈見る〉の新しい可能性を示唆するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染拡大の影響を受け、小学校や美術館が年度当初に休校・休館となったため、現地での調査活動を実施することができなかった。休校・休館が解除されて以降も、小学校における学習や美術館での鑑賞活動のあり様がこれまでと大きく変わり、対話や交流を基にした実践が困難な状況にある。また、人との接触を避ける必要から、外部から小学校を訪れることが難しい現状である。このことから、研究情報や資料の調査・収集が実施できていない。また、参加を予定していた学会や研究会がオンラインでの実施となり、十分な情報収集やディスカッションができていない。したがって、進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染拡大の影響は今後も継続すると考えられる。小学校や美術館における鑑賞活動は、これまでとは違う形での展開を余儀なくされる。具体的には、オンラインを活用した〈見る〉活動のあり方を探ることになると予想される。小学校現場での実践的研究は今後も難しい状況が続くと考えられるため、研究の内容や進め方を再検討し、今後は研究者の勤務大学での実践研究を中心に行うことも視野に入れる。具体的には、鑑賞活動の指導についての課題を整理し、本年度の研究実績を基に、子どもの〈見る〉を豊かに指導することができる教員の育成のための授業改善を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大の影響を受け、本年度に予定していた学会参加や調査活動、研究会の開催が全て実施できなかった。したがって、旅費と人件費に相当する支出がない。次年度に調査活動が可能となった場合、本年度に予定していた美術館や大学での調査を実施する。状況が変わらなかった場合及び、旅費として執行できない場合は、研究方法の修正を行い、書籍や物品としての使用に変更する。
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