研究課題/領域番号 |
20K13983
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
内田 隆 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (20782163)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 科学教育 / STS教育 / 理科教育 / 共創 / 意思決定 / 合意形成 / コンセンサス会議 |
研究実績の概要 |
本研究は,科学技術の社会問題について,生徒の主体的な議論によって意思決定・合意形成を図り,多様な価値観とのバランスに配慮しながら対話・協働によって社会の在り方を「共創」する授業を行うための,教材の開発と教師用解説書の作成及びこれらを指導できる教員養成のあり方を検討することを目的とする。2020年度の研究概要は以下の通りである。 (1)これまでに作成した教材を活用した授業の実態調査 これまでに開発した教材冊子「生命倫理について考えるコンセンサス会議-生殖補助医療編-」について,生徒の関心度や参画意識の向上など,教材の有効性は検証してきたが,教材冊子の活用しやすさなどについては,研究協力者へのヒアリング調査のみであった。今回,教師用解説書を作成するにあたって,教材冊子の構成・指示等が適切であるか等を確認するため,試行授業における各グループのディスカッションの様子を録音して分析を行った。分析の結果,小冊子形式の本教材を活用した授業において,議論の後で見るべき頁等を事前に見ている生徒が一定数いたことや,用語や表現等の解釈に時間をとられていることなど,インタビュー調査ではわからなかったことがあきらかになった。教師用解説書を作成する際には,指示の内容やタイミングや生徒が迷いやすい表現等を詳細に記載するようにする。また,生徒用の教材には順序等をわかりやすくするための適切なガイドや用語説明欄を追加するが,情報過多にならないように,一部を教師用解説書に移すなどの改良・作成の方向性を定めることができた。 (2)新しい教材作成のための準備・資料収集 これまでに,コンセンサス会議の手法を応用して生殖補助医療編と遺伝子組換え食品を題材に教材を開発してきた。これらの教材開発時の知見・方法をもとにして,新しい教材を開発するために,新型出世前診断や遺伝子編集不妊化ブルーギルなどの資料・情報の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は,これまでの研究で作成した教材冊子を活用した授業を,多くの教師が効果的に実践できるようにするための,教師用解説書の作成に向けた基礎情報を得ることが主たる研究活動である。研究協力者の中学・高校理科教員に教材を活用した試行授業を依頼し,教材の不備な点や不足している情報について,また,教材の活用方法等に関してわかりにくい点等について助言を得る予定であったが,中学・高校現場が感染対策やオンライン授業等の準備で多忙であったため,協力を得られる教員・学校が少なく,教師用解説書の試行版の作成のための基礎資料・情報をあまり得ることができず,作成に取り掛かるのが遅れている。 新たなテーマでの教材開発については,新型出生前診断やゲノム編集技術による不妊化ブルーギルによる侵略的外来魚の駆除等について,教材作成が可能かどうかを検討するための基礎資料・情報の収集を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の2年目となる2021年度は,以下の方策を立てて遂行する。 (1)教師用解説書の作成及び授業の試行:昨年度の調査で明らかになった課題を整理して,これまでの研究で作成した教材の教師用解説書(試行版)を作成し,中学・高校の教員へのインタビュー調査を行い,助言を踏まえ改良を重ねる。そのうえで,作成した教師用解説書を用いた試行授業を行い,その効果を検証する。さらに,昨年度の録音データの分析から,生徒・教師へのインタビュー調査だけでは見えてこない課題があることがあきらかになったので,試行授業においても,録音データの分析を行う。教師や生徒から得た意見・感想等をもとに検討を重ね,多くの教師が活用できるような実用的で汎用性の高い教材の作成をめざす。 (2)作成した教材・教師用解説書の学会等における発表およびWeb・書籍等による公開方法の検討:本研究課題で得た知見や成果を,学会・研究会等での研究報告やシンポジウム等の機会において発表し,プログラム設計・分量・教材の提供形態等について広く批評を得ることで,教材・教師用解説書の精度を高めるよう改良を重ねる。また,これまで進めてきた研究成果をひろく社会に公表するために,学会誌や書籍等における研究成果の発表,Web上での公開,書籍による公開等を検討し広く社会に還元する方法を検討する。 (3)新たな教材の作成:これまでに開発した生命倫理(生殖補助医療)・遺伝子組換え食品を題材とする教材の他に,新型出生前診断やゲノム編集技術による不妊化ブルーギルによる侵略的外来魚の駆除等についての教材作成に向けて検討を行う。 (4)教職課程授業での試行:新しい科学技術を導入した社会の在り方について,生徒が対話・協働で「共創」する授業を行うことができる教員養成に向けて,教職課程の授業の中で開発した教材を活用した授業を行い,教師に必要とされる資質や能力等について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
作成した教材を活用した試行授業を依頼した高校での参与観察ができなかったこと,中学・高校教員への聞き取り調査人数が少なかったこと,また,その聞き取り調査をオンラインで行うことができたことから,交通費等の使用が想定よりも少なかったため次年度使用額が生じた。繰り越した分は,次年度の交通費及び教材・教師用解説書作成のための費用に還元する。
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