研究課題/領域番号 |
20K13990
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研究機関 | 四天王寺大学 |
研究代表者 |
福若 眞人 四天王寺大学, 教育学部, 講師 (50844445)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自死 / 生きづらさ / 信頼できる大人 / 自殺予防 / 教師教育 / 人間観 / 死生観 / レヴィナス |
研究実績の概要 |
本研究は、子どもの自死や生きづらさに応答する教師の人間観や死生観の特性を、教師への聞き取りや、人間観や死生観に関する哲学的・心理学的な知見を手がかりとしながら明らかにすることを目的としている。 2021年度は、前年度に引き続き、社会的状況による影響を踏まえ、文献による情報収集をもとに、子どもの自死や生きづらさに関連する教育観や人間観についての分析を進めた。主たるものとしては、【A】子どもの自死や生きづらさを前提とした教科内容をめぐる教師の課題に関する検討、【B】「できない」ことという能力をめぐる人間観に関する検討、が挙げられる。 【A】では、子どもの「生きづらさ」について、特に家族関係をめぐる困難さに着目しながら、とりわけ「特別の教科 道徳」の内容項目がその困難さを強化することにどのように連関するのかを検討し、教科内容を取り扱う教師の課題(権力性、非対称性、当事者性)を明らかにした。【B】では、アガンベンの「潜勢力」の概念について、「学力」や教育的関係との関連から検討しつつ、「できない」ことをめぐる人間観を問い直す視座を得た。 上述の分析を通じて、本年度は自死を含む生きづらさを抱えた子どもに関わる教師や大人のあり方を問い直すための論点を抽出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度と同様に、新型コロナウィルス感染症の影響から、子どもの自殺予防に関わってきた教師への聞き取りの準備を含めた取り組みに遅れは生じている。聞き取りに向けたスケジュールについても変更が生じているが、聞き取りを分析するための手法の検討や聞き取りに際しての留意点の検討など、聞き取りを進めるための準備を進めることができた。 また、前年度に取り組んだ、レヴィナスの思想における<倫理>的な主体性の諸相について、その教育人間学的な意義を学位論文(「他なるものへと応答する〈倫理〉的主体性の諸相―レヴィナス思想における「死」と「教え」の教育人間学的意義―」)に整理することができたほか、「特別の教科 道徳」の内容項目を手がかりに、教師の関わりについて問い直すための論点を得ることや、アガンベンの「潜勢力」を手がかりに、能力をめぐる人間観に関する論点を得ることができた。 以上のことから、聞き取りとその分析を除く部分での研究は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、学校教育における「生きづらさ」と社会構造との関連を踏まえつつ、子どもの自死や生きづらさに応答する教師に求められる資質や能力について検討するとともに、自殺予防に取り組んできた教師への聞き取りおよびその分析から、教師や大人の人間観や教育観を問い直す視座を明らかにする。 2022年度は、聞き取りを行うための手続きを進めるとともに、分析を行うための研究体制を整える。また、子どもの「生きづらさ」について、社会構造との連関に着目しつつ、多様性や人権をめぐる教師や大人の人間観や教育観について分析を行う。 さらに、これまで検討してきた「主体性」や「当事者性」といった概念を、より多角的に考察し、子どもの自死や生きづらさに応答するために教師や大人に必要となる資質や能力の特徴を明らかにする。 以上のような研究課題について、論文投稿や学会発表などを通じて、得られた成果を公表することをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、前年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の影響により、学会発表等にかかる旅費および宿泊費の支出が当初の予定以上に計上されなかったことなど、研究計画の変更が余儀なくされたことにより、次年度使用額が発生した。 2022年度は、子どもの自殺予防に取り組んできた教師への聞き取りを行うための研究とともに、子どもの生きづらさや死生観・人間観の探究に必要となる文献(多様性や人権、主体性などに関連する先行研究など)の収集を行う。そのために必要な物品、特に、文献や聞き取りに必要な機材など、研究環境を整えることに費用を充てる。また社会状況に応じて、学会発表等に必要な交通費・宿泊費を執行する予定である。
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