研究課題/領域番号 |
20K13995
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
馬場 智子 岩手大学, 教育学部, 准教授 (60700391)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エンパシー / 地域に根差したカリキュラム開発 |
研究実績の概要 |
(1) 人権教育カリキュラムの翻訳・分析(就学前教育):2021年にタイで初めて就学前教育から高校教育までを網羅したカリキュラムが公布された。人権に関わる基礎的な概念、関連する条約や法案の知識に加え、理科・社会科を含む科目横断的内容であること、就学前教育では知識はほぼ扱われず、自己や他者への尊厳の意識を持たせる行動を中心としていることが明らかになった。 (2)日本人学生を対象とした調査の実施:①グローバルな社会的課題に対する質問紙調査の結果を論文で公表した。その結果、統計的に優位な差異として「外国につながる人々へのエンパシーを示す学生が多数派になった」、「社会のグローバル化を多面的にみる学生が多数派になった」という2点が明らかになった。先行研究の結果を踏まえ、実体験の少ない社会問題については、学校での学習や報道による知識の増加がエンパシーに影響を与える可能性を示唆した。②中学校・高校教員を志望する学生に対し、地域性を取り入れた科学教育に関する質問紙調査を実施した。 (3)地域課題を取り上げたカリキュラムモデルの構築:特色あるテーマをもとに校種をつなぐモデルカリキュラムを開発し自治体(岩手県紫波町)に提案した。既存の教育資源を活かし、系統的な異年齢交流における合意形成過程を中心に据えた。本年度はモデルカリキュラムの提示にとどまっており、今後の課題として、①学校の再編によって地域単位が変わるため新たな地域との連携体制が必要、②教科横断的な取り組みへの具体的提案が求められる、が挙げられる。 (4)タイ・コンケン大学をはじめとした国際科学教育ネットワークを形成しAsia Research Network Journal of Education (ARNJE:国際ジャーナル)を創設することができた(2021年4月、編集委員に就任)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最も大きな理由は、感染症拡大の影響でタイでの現地調査が不可能であったためである。また2022年度においても、教員養成課程で全学年が実習を行うという勤務校の事情により、渡航の難しい状況が続いている。ただし、これまでの共同研究をもとに国際科学教育ネットワークを形成するという進展もあったため「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)感染症拡大の影響で、当初予定していた日タイ大学生・高校生を対象としていたワークショップの開催が2022年も実現できない見通しであることから、タイの研究協力者と連携した児童生徒の家庭環境調査(WEB会議システムを活用)の実施を予定している。2021年度(2022年1月~3月)にバンコクの教育機関と協力家庭での予備調査を行う事ができたため、2022年度は手法の改善と、対象地域を拡大しての調査を予定している。 (2)タイの研究協力者と会議を行い、児童生徒の学習環境に加えて保護者の科学教育に対する志向についての聞き取り調査(WEB会議システムを活用)を予定している。申請者は直接現地に赴く見通しが立たないため、引き続きタイの研究協力者に現地での活動に協力を仰ぐ予定である。 (3) トランスサイエンス的課題でもある「感染症対策の功罪」を学生に考えさせるという試みを進めており、授業前後の意識についての調査、トランスサイエンス的課題を教員がどのように対応するかという新たな課題への発展を模索している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は海外調査が実施できなかったことに加え、予定されていた学会が全てオンライン開催、もしくは次年度に延期されたことによって交通費の使用が大幅に減った。2022年度には対面開催が予定されている学会もあるため、主に国内での学会発表・調査時の交通費として使用する。また、タイの研究協力者や現地の教育機関に調査を代行していただく事やWEB会議システムを活用した共同調査を計画しており、そのために必要な機材購入等の諸経費(WEB会議システム契約費、交通費、調査紙等印刷費、会場設営費等を含む)に使用する予定である。
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