研究課題/領域番号 |
20K14002
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
下村 岳人 島根大学, 学術研究院教育学系, 講師 (90782508)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 算数 / 数学的交渉 / 数学的知識 / 言語行為論 / 記述枠組み |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,小学校算数科の授業における,子どもの数学的交渉の様相を捉えるための記述枠組みを構築すること,また,交渉する力を育成する学習指導モデルを開発し,その妥当性や有効性を事例とともに明らかにすることである. 2020年度の研究実施計画は,大きくは次の二点であった.第一に,Searleの言語行為論に依拠することから,算数科の授業にみられる数学的交渉における発言の意図を捉えることのできる記述枠組みを構築すること.第二に,学校現場での実際の授業実践や質問紙調査等を計画,実施することから,その記述枠組みについての信頼性について検証することであった. 当初計画では,研究協力者の協力のもと,本枠組みのさらなる検証や学習指導モデルの開発に向けての,実験授業や質問紙調査等を実施することを予定していた.しかしながら,2020年度初めからの新型コロナウィルスの感染拡大による学校の休業,その後の小学校の対応等の影響により,対面式での会合をもったり,小学校教員および児童との関わりで研究を遂行したりすることが困難な状況となった. そこで本年度は,先行研究やこれまでに取得していたデータをもとに,言語行為論に依拠した数学的交渉における発言の意図を捉えるうえでの記述枠組みを構築するとともに,その妥当性の検討に専念することとした.具値的には,小学6年生や5年生において,これまでに得られていた実験授業のデータ分析をもとに,記述枠組みの妥当性や客観性について考察した.そこから得られた研究成果については,2本の論文(日本数学教育学会,日本科学教育学会)にまとめ発信した. また,本年度は研究協力者である研究者に協力を要請し,島根・奈良・兵庫をオンライン形式でつなぎ,一回3時間程度の会合を年度内に合計で14回開催し,議論を重ねた.そこからは,今後,本研究を進めていくうえでの重要な知見を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画では,2020年度の計画として,「Searleの言語行為論に依拠することから,算数科の授業にみられる数学的交渉における発言の意図を捉えることのできる記述枠組みを構築する」,「学校現場での実際の授業実践や質問紙調査等を,計画,実施することから,その記述枠組みについての信頼性について検証する」ことをあげていた. このうち,「Searleの言語行為論に依拠することから,算数科の授業にみられる数学的交渉における発言の意図を捉えることのできる記述枠組みを構築する」は,予定通りに進んでいる.また,その成果については,論文にまとめ発信することができた.さらに,研究協力者との会合からは,本枠組みの妥当性や客観性を吟味するうえでの更なる知見も得ることができた. 一方,「学校現場での実際の授業実践や質問紙調査等を,計画,実施することから,その記述枠組みについての信頼性について検証する」については,実際の算数の学習指導に関わる小学校教員との検討(授業計画や観察を通した検討を含む)によって進めることを計画していたが,2020年初めからの新型コロナウィルスの感染拡大による学校の休業,その後の小学校の対応等の影響により,小学校教員および児童との関わりで研究を遂行することが困難な状況となったために実現できなかった.さらには,本記述枠組みの信頼性の検討を行ったうえで,学習指導モデルの開発の準備に取り掛かる予定としていたが,先述の理由から,そこまでには至ることができなかった. 以上の理由から,2020年度の研究の進捗を,「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に実施を予定していた,新型コロナウィルスの感染拡大の影響により小学校教員および児童との関わりで遂行が困難となっていた部分については,小学校現場を訪問しての授業観察および児童に対する質問紙調査を通した実践的検討を随時進める.現在,島根県内の学校では,対面での授業を実施できている学校が大半であることから,筆者の所属機関が定める規則および,教育委員会や学校が定める規則を遵守し,可能な範囲で対面式での実験授業の実施,観察を行うことを予定している.また,対面式での訪問が困難な場合は,オンライン会議システムを利用した遠隔での授業観察,あるいは授業をVTRに記録し,後日視聴して,その内容をオンラインで議論するなどの方法で進める.また,児童に対する質問紙調査は,2021年度末には,可能な範囲で実施することを前提に準備を進める. 2021年度の研究実施計画における中心課題には,算数科における交渉する力を育成するうえでの学習指導モデルを開発することを掲げている.この開発には,2020年度に行う予定であった,「学校現場での実際の授業実践や質問紙調査等を,計画,実施することから,その記述枠組みについての信頼性について検証する」が必要である.上述の方法で,この検証を急ぎたい.そして,当初の2021年度の実施計画に係る調査と授業実践とを,可能な限り実施する.こちらの実施についても,オンライン会議システムなどを柔軟に取り入れることから対応していくことを予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度支出予定の経費は,研究協力者との会合のための旅費,国内学会(茨城,新潟など)および国際学会(上海,タイ)における研究発表のための旅費,児童に対する質問紙調査のデータ入力作業の謝金が主であった.しかし,2020年初めからの新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により,対面式での会合は開催できず,また,国内学会および国際学会も軒並み中止やオンライン開催となった.このため,予定していた旅費は支出しなかった.また,小学校現場の状況に鑑み,2020年度の児童に対する質問紙調査は実施せず,そのため,データ入力作業の謝金も支出されなかった. 本研究にとっては,研究協力者とともに児童の生の姿を共有し,検討することが大きな推進力の一つである.また,国際学会は,世界的な視点から本研究について検討できたり,海外の研究者と直接議論することができる貴重な機会であり.同時に,今後も引き続き,オンラインで様々な対応をしなければならないことが予想される.円滑に研究活動を進めることができるようにするためのオンライン環境を,今後,整えていく必要がある.生じた次年度使用額と当該年度分として請求する予算は,それらのために使用する計画である.
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