研究実績の概要 |
映像メディア表現が育む能力感の1つとして,映像が身体感覚を刺激し,映像から身体的アナロジーによって身体感覚を想像し表象的感覚を形成すること,また知識化していくことを【映像的触覚知】 (V-TISK=Visually Triggered Ideated Somatic Knowledge) と定義し研究を進めてきた。先行研究において、触覚的認知にはばらつきがあるが,美術教育でアニメーションをつくる活動により,映像視聴における触覚的な認知のばらつきを抑えられることがわかっている。2020年から2022年における本研究では,近赤外分光法(Near Infrared Spectroscopy, NIRS)を用いて分析した。その結果,映像視聴時にも触覚野が賦活することが分かり,単純に視覚からの刺激入力に際しても我々の脳ではブロードマンエリア5や7といった触覚刺激を体性感覚として統合する部分が賦活し,触覚を脳内で生成していることが判明した。また、触覚刺激の脳内生成には個人差が大きいことも判明した。賦活しない特性の被験者に対しても写真の色付けなど美術教育の特定の活動によって触覚と視覚を繋げる実践を1ヶ月程度行うことで触覚野が賦活するようになった。よって,美術教育は一定の認知能力開発の教育効果があることが見て取れる。一方で、アファンタジアと呼ばれる脳内で心的視覚イメージをまったく形成しない者が概ね3%-4%程度発見された。そうしたスペクトラムには幅があり心的視覚イメージの想起しずらいものも一定程度みこまれる。美術教育上「頭のなかで対象をイメージする」ことを前提とした美術教育のあり方を今一度再考察する必要が出てきた。本研究の成果は多様な認知特性に従ってインクルーシブに個別最適化した想起方法や思考,表現,鑑賞のプロセス開発の必要性を示唆している。
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