研究課題/領域番号 |
20K14021
|
研究機関 | 鎌倉女子大学短期大学部 |
研究代表者 |
杉山 勇人 鎌倉女子大学短期大学部, 初等教育学科, 准教授 (80594605)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 字体・字形 / 書字 / 文字教育 / 国語科書写 / 芸術科書道 / 書写書道教育 / 漢字学習 / 漢字テスト |
研究実績の概要 |
本研究は、近代以降における字体・字形の概念形成に関わる歴史的経緯を明らかにした上で、字体が示す「文字の骨組み」の要素について再検討している。戦後の学力調査等における漢字書き取りテストの正誤判定例から、漢字字体の正誤基準を見出し、文字指導と書字指導の連携のための基礎研究となることを目指している。本年度は以下の通り研究を進めた。 1.昭和20-30年代の学力調査で実施された漢字書き取りテストの正誤判定例を調査し、漢字字体の正誤基準を明らかにした。その基準は次の(1)~(3)に大きく分けることができる。(1)「判読できるか、できないか」という基準で判断し、画数の増減や続け書き等の省略も許容するもの。(2)総画数を絶対的な基準として、字形の違いは許容するもの(文字の骨組み=総画数と捉える)。(3)字形の違いも正誤基準とするもの(点画の形状・接し方・組み立て方などによっても誤字となる場合がある)。 2.上記1のように、各学力調査によって基準に揺れが見られ、その調査目的によって異なる場合があった。なお、判定は字種によっても異なるが、「常用漢字表」の制定以降は、(2)の基準に収斂する傾向にある。 3.「常用漢字表」(平成22年改定)、「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)(平成28年2月29日)」における字体・字形の概念を改めて整理・検討した。これによって、現在の漢字字体の正誤基準となる具体的な字形例を示し、その問題点を指摘した。 4.全国学力調査(1956-1966)における漢字書き取りテストの誤答例から、その正誤基準を明らかにした。「一般に、誤答には1点1画の不確かなものが多いが、これについては、今後もいっそう正しい指導が望まれる。」(昭和31年度報告書)とされるように、学力調査の実施によって、正しく整えて書く力が「学力」として求められるようになったと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
字体・字形等の語についての歴史的経緯を検討し、「字体=文字の骨組み」は、運筆の方向と筆圧の変化、それに伴う点画の形状等を含めて捉えられてきたことを明らかにした。しかしながら、常用漢字表の字体観は、点画の形状等を字体として捉えておらず、点画の数(総画数)のみで捉えている。このことからまず、常用漢字表の字体観による漢字字体の正誤判定基準を具体的な字例で示し、その問題点を抽出することにした。これは、2022年度に予定していた内容であったが、先行して整理・検討する運びとなった。 2020年度に引き続き、各学力調査における漢字書き取りテストの正誤判定基準も調査した。こちらは、各学力調査の目的及び結果報告についての分析が十分に進んでおらず、2022年度の課題としたい。また、学力調査の実施過程で、字体を正確に書き記すことが「学力」の一部となり、書字教育が教育課程の中で重視されるようになった背景が明らかになった。これについても引き続き調べていきたい。 2021年度は、中国・韓国を中心に、東アジアにおける字体・字形等の概念や文字の正誤判定基準の違いについて比較文化の観点から調査を予定していたが、新型コロナウイルスの影響によって渡航調査ができなかった。しかし、オンライン研究会における発表等によって、意見交換をすることができた。 以上の通り、研究計画の変更と前後する部分はあるが、全体としておおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの検討をもとに、各種漢字書き取りテストの正誤判定基準を中心として、字体・字形の概念の捉え方について考察していきたい。 1.戦後の各学力調査における漢字書き取りテストの正誤判定を詳細に検討し、正誤基準(字体の「正しさ」=文字の骨組みの捉え方)を明らかにする。 2.実際の漢字テストでは、字形の要素によっても正誤が判定されていた。このため、文字を正確に書き記すことが学力テストに必須の能力とされたのである。これによって、昭和20-30年代に書字教育が教育課程の中で重視されるようになったと考えられるため、この視点からも調査を続けたい。 3.各学力調査の目的及び結果報告の考察と、漢字書き取りテストの正誤判定基準との関連から、求められていた漢字書写力の実態を明らかにする。合わせて字体・字形の概念の捉え方も再検討したい。 これらの考察の結果、字体・字形の概念を明確にすることができれば、漢字字体の正誤基準の揺れをなくすことができると考えられる。これによって、文字指導と書写指導の双方の基礎固めとしたい。研究成果は学会等で発表を行い、論文としてまとめ、最終報告とする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響によって、当初予定していた学会発表はオンライン実施となり旅費は使用しなかった。また同じく先行研究の動向調査(中国)も中止となり、これに関わる費用も使用しなかった。 これらの経費については、2022年度の調査・資料収集・研究成果発表のための旅費、および関連図書費として使用する予定である。
|