本研究では、近代以降における字体・字形の概念形成に関わる歴史的経緯を明らかにした上で、字体が示す「文字の骨組み」の要素について再検討してきた。最終年度は、次の1・2の研究を進めた。 1.昭和20-40年代、「漢字を書く力」の低下が指摘され、学力調査によって正しい字体・整った字形がテストされるようになった。この力が基礎学力として求められるようになったことで、書写教育・毛筆学習の重視につながったと考えられる。2.運筆の形状である「はね」は、字体の一部として捉えられ、字体の正誤基準となる場合がある。そこで、「はね」を含む字形例の歴史的変遷を分析し、漢字テストにおける「はね」の取り扱いを再検討した。 また、研究期間全体を通じて実施した研究の成果について、大きくまとめると次の1~3となる。 1.これまでの字体についての先行研究を整理した結果、字体は運筆の方向と筆圧の変化、それに伴う点画の形状も含めて捉えられてきたことが明らかになった。現在も、手書き文字だけではなく印刷文字も含めて、字体が示す「文字の骨組み」は等質・等幅の線(骨)だけで捉えられていないと考えられる。2.戦後の学力調査等における漢字テストでは、「その文字として読めるか」という緩やかな基準から、「1画1画を整えて、点画の数を過不足なく書く」という基準へと移行し、字体観が変化した。その「正しい字体・整った字形で書く能力」を育成するために、毛筆学習が必要とされ、書写教育が見直されていったのである。3.しかし、現在の常用漢字表における字体観は、文字の骨組みを「点画の数」と捉え、これが漢字字体の正誤基準となっている。この基準をもとに具体的な字形を分析すると、基本点画の形や「はね」の取り扱い等、判断に迷うものが指摘できる。これらについて、書写における字形指導との整合性も踏まえて検証・整理を行い、漢字字体の正誤基準の方向性を示した。
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