本研究は,学生への経済的支援が学生の進学選択,及び進学後の学習行動に与える影響を考察し,特に限定された対象に向けた経済支援政策の効果について検討することが目的である。2022年度は,継続的に大学進学前,在学中,卒業後という3つの時点に着目して経済支援の効果分析を進めてきた。 先ず,大学進学前の段階では,高校生の進路選択と情報ギャップに関する考察を行った。近年,奨学金利用の情報ギャップに注目が集まっているが,奨学金の情報を含む大学進学に関する情報の収集と利用,その際,社会階層の間に違いがあるか,さらに実際の進路選択にどう影響しているかについて,その実態は必ずしも明確になっていない。本研究ではパネル調査を用いて分析を行った。その結果,教育情報のアクセスには家計所得によりギャップが生じていることが明らかになり,さらに大学進学において学業成績と家計の経済力が重要な要因であることが改めて確認できた。 次に,大学在学中の段階について,コロナ禍での学習と生活,特に学生の経済面に着目して検討を行った。分析を通じて経済面で困難を抱えている学生はコロナによる影響が大きいほか,貸与奨学金利用者の生活が苦しい状況が確認できた。 一方,卒業後においては奨学金返還者の生活実態,特にコロナ禍での雇用状況と勤務状況について,パネル調査を用いて考察を行った。その結果,コロナ禍で柔軟な勤務形態に対応しにくい非正規雇用者は,生活面での不安が大きい様子が確認できた。特に奨学金利用者の場合,コロナによる影響が大きいことが確認できた。 さらに,日本と中国で実施したWeb調査のデータを用いて,比較の観点から検討を行った。研究期間全体を通じて経済支援の政策面と利用面からの検討,及び日中間の比較によって得られた知見については,学会発表や論文として投稿する等公開している。今後も追跡調査を通じてこれまでの議論を深めていきたい。
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