研究課題/領域番号 |
20K14038
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
間篠 剛留 日本大学, 文理学部, 准教授 (90756595)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高等教育 / デモクラシー / ラーニング・コミュニティ / サービス・ラーニング / 新自由主義 / アメリカ / コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究は、20世紀アメリカ高等教育におけるデモクラシー理念の展開を明らかにするため、ラーニング・コミュニティ論及びサービス・ラーニング論(前史を含む)に焦点を当て、そこでのデモクラシー理解を年代別に検討するものである。今年度は、デモクラシーに貢献する高等教育の実践について、どのような可能性が見出せるのか検討を行った。今年度の主要な実績は、次の二点にまとめることができる。 第一は、ゴダード・カレッジの実践とその学長ロイス・ピトキンの高等教育論について検討を行い、大学におけるコミュニティ形成に関して、現代のラーニング・コミュニティとは異なる可能性を見いだしたことである。カリキュラム改革に取り組む現代のラーニング・コミュニティは、既存の高等教育システムを大きく変えることなく、学生コミュニティを支援することが多い。それに対して、ピトキンは、ラーニング・コミュニティを学生生活や学外のコミュニティにまで拡大しようとした。この取り組みは、生の全体をカリキュラムとし、学生がカレッジでの責任ある自治や地域コミュニティへの貢献を通じて地域コミュニティについて学び、つながりを持てるようにしたものであった。 第二は、現代の高等教育におけるSLを、日米比較の観点から、新自由主義との関係も踏まえて検討したことである。米国と比較して、日本のSLでは、中心的な関心が個人的なスキルの発達と地域へのボランティア的な貢献にあり、政治的関心は低く、学生が価値観や哲学を(再)構築することについて言及されない傾向にある。しかし一方で、米国においても、SLは経済の論理にからめとられてしまう危険性が指摘されている。そう考えると、デモクラシーのためのSLは、公的関心と私的関心の微妙で危ういバランスの上にしか成り立たないと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響で授業や学務の負担が大きい状況は変わっていないが、研究1年目に集めた資料を分析し、2022年度中に論文化することを目標としていたものについても、論文としてまとめることができた。「研究実績の概要」に示した2つの成果は、いずれも学会誌に投稿し、掲載可となった。コロナ禍のため当初計画していた海外での資料収集は行うことができなかったが、計画を大幅に修正し、国内で入手可能な文献を用いて可能な範囲の研究を進めることができている。そのため、進捗状況としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
学生運動や公民権運動が高等教育におけるデモクラシーにどのような影響を与えたのかを検討するため、2021年度に海外調査を行う予定だった。これを2022年度に実現できればと考えていたが、新型コロナウイルスの問題によって実現できない可能性が高い。そこでまずは、国内で入手可能な資料を用いて、ラーニング・コミュニティ論と1960年代の学生運動とのかかわりについて再検討を行う。学会発表を行い、2022年度中の掲載可を目指して論文執筆をすすめる。 そのうえで、これまで検討を行ってきた第二次世界大戦前の議論と現代の議論とを接続し、各実践や論者の政治思想的な影響関係を整理する。特にデューイのデモクラシー論がどのように捉えられていたのかに注目して検討をすすめる。これについても学会発表を行い、2022年度中の掲載可を目指して論文執筆をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、予定していた海外調査を行うことができず、また、参加を予定していた学会がオンライン開催になったため、旅費を使用する機会がなかった。その分文献の購入を優先したが、それでも若干の予算が余った。 次年度についても、新型コロナウイルスの問題が収束しない可能性が高いため、引き続き文献の購入を優先する。
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