本研究は、首都圏において地方出身学生を受け入れる県人寮に着目し、その設立から現在までの歴史的趨勢を分析することを通して、同郷者の進学移動を持続的に可能とする仕組みを明らかにする。具体的には、適応理論の文献レビューを通じて、進学移動への応用可能性を検討し、地方から首都圏への進学移動者を受け入れる県人寮を対象に、その制度化過程及び学生の適応過程双方を明らかにすることを目的としている。 最終年度である研究4年目においては、関係者へのインタビュー調査・史資料収集。学術論文としてまとめる作業をを行った。史資料については、国会図書館や公立図書館、所属大学図書館を活用し、おおよそ計画通りの史資料を収集することができた。またインタビューについても、関西圏の寮1件の寮長を対象に実施し、史資料の収集にご協力いただいた。 研究全体の成果として、第一に各県人寮の創設年や規模に関する基礎情報を整理し、県人寮創設期の全体的な動向を把握することができた。第二に、各寮の趣意書や規則の史資料を得ることで、県人寮が創設される目的を把握し、上京する上での寮の機能を時代や地域ごとに分析することができた。第三に、各寮が創設される背景についても旧藩主の関与や地域の寮設立運動を明らかにでき、寮の制度化に必要なファクターをモデル化することができた。第四に、複数の寮の卒寮生名簿を得ることができ、入寮前の属性や状況、また卒寮後の就職先や居住地から学生の進学や就労にともなう地域移動がどのように生じているのかを分析することができた。第五に、寮史に記録される回顧録から寮生自身に寮に居住することが上京やその後の学生生活の適応にいかなる影響を与えたのかを分析することが出来た。 今後は、これらの成果を学術論文等で発信する予定である。
|