研究課題/領域番号 |
20K14051
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
庭山 和貴 大阪教育大学, 連合教職実践研究科, 准教授 (80805987)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポジティブ行動支援 / データに基づく意思決定 / SWPBS / PBIS / 問題行動 |
研究実績の概要 |
児童生徒の問題行動に対する予防効果が実証されている枠組みとして、学校規模ポジティブ行動支援(以下、SWPBS)がある。SWPBSでは、学校全体で組織的に行動支援を実施した上で、一人ひとりの児童生徒にとって本当に支援が効果的なのか、データによって把握し続ける。さらにデータに基づいて、学校全体の支援システムを改善したり、全体的な支援では効果が見られない児童生徒へより手厚い支援を行ったりする。 本研究では、上記のような全校規模でのデータ収集・分析・活用を可能とするため、まず令和2年度は、児童生徒の問題行動の実態をデータとして把握するためのタブレット用アプリ開発を行い、一般公開するところまで漕ぎつけた。これによって、学校規模で児童生徒の問題行動データを簡便に収集し、さらにそれを瞬時にグラフ化することが可能となった。さらに、児童生徒の心理・行動面の強み/困難さを測定する質問紙や、基礎学力に関するデータについて、手書きで記入されたものを自動集計するシステムも導入し、現在設定中である。これによって、児童生徒の問題行動データ以外も、短期間でグラフ化して学校現場にフィードバックできるようになった。 こうしたデータ収集・グラフ化システムを整備したことで、学校現場において教員がデータに基づいて、児童生徒一人ひとりに対する現在の行動支援が効果的かどうか常にモニタリングし、必要に応じて支援の改善を行うための基礎的環境を整えることができた。データに基づいて教員が支援の計画・実行・改善を行う(「データに基づく意思決定」と呼ぶ)ことで、児童生徒の問題行動が減少することが、米国の先行研究では実証されている。今後は、日本の学校現場においても「データに基づく意思決定」を可能とするために、令和2年度に開発したシステムを活用するための教員研修の開発や、学校現場におけるアプリのユーザビリティの検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、一人ひとりの児童生徒にとって現在行っている支援が効果的であるかを常にデータによって把握し、学校全体の支援システムの改善や、全体的な支援では効果が見られない児童生徒へより手厚い支援を行うためのシステム構築を目指すものである。 令和2年度では、上記のような学校規模のシステムを構築するための基礎となるデータ収集・分析アプリを開発することができた。コロナ禍の影響もあり、当初の予定よりアプリ開発に遅れが生じたものの、年度内には完成した。また、本研究は前述のSWPBSの完全実施に必要な要素を日本の教育システムに合わせて開発していくものであるが、これに関連する査読付き論文5本を令和2年度中に刊行することができた。これは想定以上の成果であった。よって、総合的には上記のように自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、開発した問題行動データ収集アプリと質問紙自動集計システムを実際に稼働させ、学校現場と連携して実際にデータ収集を行う。これによってアプリ使用上の課題等を洗い出し、必要に応じてアプリのアップデートを行う。 「データに基づく意思決定スキル」を教員が獲得するための研修開発も予定しているが、コロナ禍の影響により集合研修が困難であるため、基本的にはオンライン研修に切り替える予定である。オンライン研修では、参加者の「データに基づく意思決定スキル」を教員が獲得できたかの直接的な検証が困難であるが、より本質的に重要な学校現場において開発したアプリを教員が継続して使用し、意思決定のために活用できるかの検証を前倒しして進める。具体的には、複数の学校に令和2年度に開発したアプリを使用してもらい、さらに児童生徒の心理・行動面の強み/困難さを測定する心理尺度(Strength and Difficulties Questionnaire)や基礎学力面のデータも収集してもらう。こういったデータを定期的に校内で共有する仕組みを学校現場と連携して構築し、学校現場において「データに基づく意思決定」を教員が行うことに繋げる。こうした仕組みを整えることによって、教員の児童生徒に対する指導・支援行動がより適切なものに変容するか、また実際に児童生徒の行動データにどのような変化が見られるかを検証する。
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