2020-2022年度の実施課題であったが,新型コロナウイルス感染症の影響により研究遂行に遅れが生じたため2023年度まで延長して実施した。 障害者差別解消法の施行により合理的配慮の提供は義務となったが,感覚処理特性(感覚過敏や感覚鈍麻など)は個人差が多く,学校などの集団場面においては全員にとって望ましい環境を設定する難しさが生じやすい。そこで,感覚処理特性の個人差における合理的配慮の実現に向けて,環境調整と自己調整の両輪から検討をした。 2020-2022年度までは新型コロナウイルス感染症の予防,生活様式の変化が大きく,発達障害の診断のある当事者を対象にした実験心理学的検討(特に触覚過敏に関するもの)は実施が叶わなかった。実験的検討に変わり,聞き取り調査を通して感覚過敏に関する困りを収集することで,障害特性と感覚処理特性を踏まえた現状の困りを整理することができた。発達障害等の診断のない大学生を対象として実施した調査では,感覚過敏特性が高い人は2割程度おり,実際に大学生活全般における著しい困りにつながっていることが分かった。その中で,困りの蓄積が心理的諸問題(抑うつ,不眠など)につながりうることが示唆された。 発達障害の有無にかかわらず,感覚処理特性の個人差は大きいことから,個々にとっての望ましい環境設定を一律に設定することの限界も同時に再確認できた。しかしながら,個人なりの自己調整の方略によって一定程度,困りの回避や改善につながることが実態調査および事例ケースにおいても示唆されたことから,感覚処理特性の困りの軽減のためには環境調整と同時に自己調整方法の拡大が有用となる知見を得ることができた。
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