知的障害と運動障害を併せもつ重度・重複障害児者とのコミュニケーションを支援するためには、重度・重複障害児者の定位反応を確認することを通じて、覚醒水準や外界への注意、残存している感覚モダリティを確認することが重要だと考えられる。しかしながら重度・ 重複児者の反応は微小なために反応の有無が分かりにくい上に、日内や日間の変動によって反応が生じるかどうかにも不安定さがある。そのため本研究は、反復測定された重度・重複児者の動きの時系列データを、メタ分析によって統合し、定位反応の個別性を客観的に把握することを目的とした。 3年目の2022年度は、重度・重複障害児者の定位反応を規定する要因を検討するためのメタ分析を行った。最終年度までの実験的観察によって得られた重度・重複障害児者の動きを反映したピクセルの色変化量を、フレーム毎の時系列データを1秒毎に平均し、実験的観察において刺激提示を行った介入フェーズ、その事前フェーズと事後フェーズのそれぞれについて5時点以上になるように要約し、平均値に基づく効果量(SMD)を算出し、メタ分析の従属変数とした。メタ分析には、心拍数などの日内変動や、睡眠の質などの日間変動の要因を含めたマルチレベルモデルを構築し、それぞれの要因による効果量の違いについて検討した。その結果、心拍数の水準の影響や睡眠の質によって定位反応の生じやすさに違いがあるケースがみられた。 本研究ではシングルケース研究の研究手法を比較検討し、重度・重複障害児者の微小な反応へと適用することで、その反応の客観的な解釈に繋げる手法を提案した。
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