本研究は,研究代表者がこれまで行ってきた熟達野球指導者の状況認知に関する研究をもとに,【課題1】VR技術を用いて,熟達指導者が有する技術的視点や選手起用,采配などに関する状況認知とアイトラッキングを同期させた動画(以後,VR視界動画)を作成する.それらを【課題2】大所帯で活動する大学野球硬式野球部の2軍選手および将来指導者を志す選手に視聴させ,視聴前後の状況認知や視点ポイントの変化を検証する.なお,本研究の最終課題は,熟達指導者の直接的な指導を伴わない状況下でも技術論や野球観,采配に関する知見がより効率的に現役選手および次代の指導者へ伝承されるシステムを構築することである. 研究初年度から,熟達指導者が指揮を執る野球の試合について,VR視界動画を作成した.それらを将来野球の指導者をめざす学生に視聴させ,その前後での状況認知の変化を検証した結果,VR視界動画視聴前は何も語っていなかった場面で,その影響を受けたと思われる状況認知が現れたり,視聴から得た知識をもとに全く新しい状況認知を推論的に示す学生が現れた.このことにより,監督の直接的な指導を伴わない状況下でも,VR視界動画を用いることで技術論や采配に関する知見が習得される可能性が示唆された. 一方,VR視界動画作成を進めていく上で,野球の試合全体を撮影し,そこにアイトラッキングによる視点を表出させた際,被写体(打者や投手)が小さく,アイトラッキング技術の有用性が思うように発揮できないといった課題も浮き彫りとなった.そこで野球の指導現場の今日的重要課題である投手育成にターゲットを絞り,その解決を図った.その結果,「熟達投手コーチに頻出の6つの発話が存在すること」や「熟達投手コーチは投球中“非投球腕”,“ピボット脚”,“骨盤”の順に視点を置く回数が多いこと」などが明らかになった.それらの結果についても既に,論文投稿を行なった.
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