本研究課題は,理科授業の実践に関わる教師知識の形成に焦点を当て,教師志望学生の省察の実態をゲシュタルト形成の観点から解明するともに,ゲシュタルト形成を志向した省察プログラムを開発・検証し,教員養成においてリアリスティック・アプローチを導入する可能性について検討することである。研究期間の延長が認められた令和5年度は,次の2点に取り組んだ。 第1に,暗黙知を形式知に変換する行為として「書くこと」に注目し,理科教育実習日誌について,命題とモダリティの観点から分析を行った。この分析は,実践経験やその経験に対する学生の受け止め方を出発点とするリアリスティック・アプローチの原則に基づき,経験をどのように形式知へと変換するのかを議論するために行われたものである。分析の結果,実習生は指導方略に関する知識を中心に構築していたこと,構築される知識の大半が断定的に示されていたことが明らかとなった。また,本質的な気づきがなされないままに日誌を記述していることが示唆された。 第2に,省察プログラムとして理科授業観の自覚化を志向した協働的省察を実施し,その成果と課題を分析した。分析の結果,考案した協働的省察は,学生の理科授業観に気づきや深まりを与えるものであったほか,理科授業観の自覚化の萌芽となり得る,当事者が表現した理科授業観と他者が表現した理科授業観との間の微細な違いを顕在化させるものであった。 研究期間全体を通した本研究の成果として,教師志望学生の省察の実態について,「語ること」と「書くこと」の2つの観点から事例的に明らかにされたことを挙げることができる。また,理科授業観の自覚化を志向した協働的省察が教師志望学生の学びにとって有効であることが示されたことも本研究の成果である。
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