本研究は,国内外における先進的STEM教育実践校で行われている教師の発問の特徴について明らかにするものである。そのために,科学的高次思考を促すプラクティスを解明し,日本の教育事情に即したSTEM教育を提案するとともに,指導法への示唆を導出することを目的とした。2020年度は,発問に関する理論研究,及び国内研究者を対象としたインタビュー調査及びアンケート調査を行い,教師の発問の特徴に関する探究を行った。その結果,日本におけるSTEM教育実践者は,適切なタイミングで助言をしたり,プラクティスとコンテンツの両輪をなすイメージで探究活動を行ったりするなどの特徴があることが分かった。2021年度は,2020年度の継続研究で,調査対象を国外の研究者や大学生に広げ,Webアンケート調査を実施した。その結果,科学的高次思考を促すプラクティスの実践例として,学習者の現状把握を的確に行ったうえで,認知的葛藤を生起させたり,次の学習につなげたりする工夫を意図的に行っていることが明らかとなった。2022年度は,フィリピンの大学を訪問し,研究者を対象に電気分野の授業実践を行った。また,認知的葛藤を生起させるための工夫を検討するために,国内の理数系学部に在籍する国立理科系大学生319名を対象としたアンケート調査を分析し,素朴概念の形成過程や,克服過程を明確化させることができた。2023年度は,認知的葛藤を活用しながら,発散的発問から収束的発問を行う構造で自然現象を説明する理科独自の発問フレームワークを構築してきた成果を踏まえたうえで,国内外の大学で実践を重ねてきた。教師の発問を契機として,学習者が論理的に学習内容を理解していくためにも,教師の発問は授業中の単発的なものではなく,次の学習に繋げていくものという意識が大切である。今後も,本研究成果を踏まえながら,教育実践を継続していきたい。
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