大学博物館(京都大学、名古屋大学、山形大学、鹿児島大学)での水銀整流器保存状態に関する調査を総括し今後の高等教育における電気技術史の活用について提言をまとめる為の資料類について編集中である。又、主な製造メーカー(日立製作所、東芝〔旧芝浦製作所〕、三菱電機、YUASA〔旧日本電池〕等)が開発・製造した水銀整流器に関する技術的な特徴に関しても博物館における実物筐体の観察を通してより詳細な知見を得ることができた。 以上の成果を踏まえて国際学会(IEEE主催、HISTELCON2023、9月、於イタリア共和国)でのオーラル講演を行った。発表の骨子はYUASA(旧日本電池)で水銀整流器の研究・開発から製造までを担った土原豊喜氏が商標「グライター」を銘打った一連の水銀整流器品種群において日本独自の技術思想を反映した研究開発を行った足跡から電気技術史の新たな側面を明らかにしたことである。講演に対する質疑にてドイツ博物館の学芸員より土原氏の開発動機となった初期のドイツ製水銀整流器に関する問い合わせがあり、調査の範囲が国境を越えて広がる可能性を感じている。 名古屋大学博物館での調査中に「ベルト―ロ整流器」と称する機械式整流装置の存在が判明した。同博物館には現物筐体以外に履歴を示す情報が乏しかったことから独自に調査を行い、株式会社中央製作所に開発当時からの資料が保存されていることが判明した。同社の協力を得て更に調査を進めたところ、大正時代に旧制第八高等学校の椎尾教授が発明し特許を取得した純国産技術であることを確認した。ベルト―ロ整流器は低電圧・大電流を安定的に供給できることを特徴とする電源装置として実用化され、1968年に製造を終了するまでメッキ・アルマイト加工業界をはじめとした産業界に寄与した実績を有する。以上の成果を電気学会に報告することで2023年度の「でんきの礎」にて顕彰された。
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