研究実績の概要 |
まず、2021年度に関しては、項目反応間の局所依存性(LD)を無向ネットワークとして表現する新たな項目反応モデル(IRM)の推定法や、得られた推定値から項目・テスト情報量などのテストの作成・評価・運用に資する情報を抽出する方法について検討を行った。 具体的には、Epskamp et al. (2018)で紹介されているグラフィカルベクトル自己回帰モデルの「残差のネットワーク分析(NA)」という考え方とLDを検出するために最もよく利用されているQ3統計量の「項目反応とIRMの差の相関」という考え方を統合したモデルの推定手続きを考案し、NAの手法を援用しLDを表現しているPartially confirmatory item response model (Chen, 2020)やBayesian Lasso factor model (Pan et al., 2017)では未解決の問題となっていた再現性の問題、つまり個々の項目に関するIRMが項目反応理論(IRT)に基づく分析で一般的に用いられるIRMとは異なっているという問題も解決できるモデルの推定法を提案した。また、この推定法を利用した場合、テストが測定している能力や態度に関する情報はLDに関するネットワークには含まれないことになり、IRTに基づくテストの作成・評価・運用を行う際に利用されることの多いテスト情報量等の指標については、個々の項目に関するIRMに基づき、従来通り計算すればよいこととなる。 このように、本研究課題では、その研究期間全体を通じて、「ネットワーク分析における変数間のダイナミクスの探索方法とIRTにおける項目反応のモデリング方法を融合させ、探索的に項目反応間の局所依存性の有無を検討し、かつIRTと同様のテストデータ解析を可能にする新たなテスト理論を確立する」こという当初の目的を達成できたと考えられる。
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