研究課題/領域番号 |
20K14171
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
樫原 潤 東洋大学, 社会学部, 助教 (10788516)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | うつ病 / 社会的受容 / 教育 / 偏見 / サポート行動 |
研究実績の概要 |
「うつ病罹患者の社会的受容を促進するための教育コンテンツの開発」という研究目標の達成に向け,当初は当該年度にデータ収集を行って教材開発につなげることを計画していた。しかし,新型コロナウイルスの感染再拡大によって研究参加者募集が困難になったため,これまで収集したデータの分析や論文執筆に注力する方針に切り替えた。その結果,「うつ病罹患者に対するサポート行動を動機づける要因の中で,いずれが中核的とみなせるか」を心理ネットワーク分析によって解明した論文 (筆頭著者) が査読付き英文誌に採択され,早期公開版が公表されるに至った。また,うつ病像の多様性を数量的に把握する手段である心理ネットワークアプローチについてのレビュー論文2本 (いずれも筆頭著者) が,査読を通過して国内誌に採択され,いずれも公表に至った。 その他にも,メルボルン大学のNicola Reavley研究室と共同で,うつ病など精神疾患の多様性理解にメディア報道がどう影響するかを検討する実験を実施し,論文 (第5著者) が査読付き英文誌に採択された。また,国立精神・神経医療研究センターの伊藤正哉氏らとの共同研究にも着手し,「うつ病など精神疾患のネットワーク構造の違いに応じて,患者をクラスタに分類することができる」という研究成果をまとめ,論文 (筆頭著者) を査読付き英文誌で公開することができた。さらに,メルボルン大学のNicola Reavley研究室への出張計画こそ実現が叶わなかったものの,オンラインで交流を継続でき,先行研究の系統的レビューに着手することができた。このように,2021年度は新規のデータ収集こそ叶わなかったものの,国内外の研究者との協働を加速させることができ,うつ病罹患者の多様性理解や社会的受容の促進につながり得る知見を多角的に示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は,新型コロナウイルス感染症の流行とそれに伴う行動制限の影響を受け,年間を通して研究活動のペースダウンを余儀なくされた。また,研究参加者を募って対面でデータ収集することが依然として困難な状況にあり,メルボルン大学のNicola Reavley研究室や日本大学の坂本真士研究室などの協働相手の業務も逼迫していたため,当該年度内の調査実施は見送らざるを得なかった。「調査を実施して,そのデータの分析結果を踏まえて教材を作成し,最終年度で教育を実施してその効果を多角的に検討する」という全体計画がある中で,起点となる調査を完了できなかったのは大きな痛手といえる。さらに2021年度は,「オンラインの学会発表は,準備に膨大な手間がかかる一方で他の参加者からコメントを得る機会がぐっと減ってしまう」という懸念から,一切の学会発表を行わなかった。そのため,幅広い研究者との意見交換という面では,例年よりも停滞した1年となった。 一方で,「研究実績の概要」に示したように,当該年度にはこれまでの研究成果を複数の論文という形にして発信することができた。このことにより,これまで論文執筆に割いていた時間を,2022年度は調査実施の方にたっぷりと回すことが可能になった。また,論文執筆・公開の過程で,国立精神・神経医療研究センターなどと新たな協働関係を築くことができ,うつ病教育の教材をまとめていくためのビジョンがより明確なものになっていった。 このように,当初計画通りにいかない部分が多くあった一方で,当該年度には論文を中心としたアウトプットを積み重ねることができ,他機関の研究者との関係構築を進めることができた。インパクトの強いうつ病教育を今後形作っていくためには,豊かな研究実績や良好な協働関係という土台が必要であり,その土台を作るのに必要な遠回りをしたのが2021年度であったと総括している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に積み重ねた研究実績や協働関係を土台に,2022年度はうつ病教材開発のための調査と先行研究の系統的レビューを完了させ,うつ病教育のための教材作成を進めていく。また,2022年度も感染症流行に伴う制約がいくぶんか発生することが予測されるため,「自前のうつ病教育プログラムを完成させ,その効果評価研究を完遂する」という当初目標に固執しすぎず,今の状況で実現可能な研究目標に取り組んでいく。具体的には,「うつ病プログラムの前段階である教材について,パイロット的な効果評価を行う」「他機関がすでに実施しているうつ病教育プログラムと連携してデータを収集する」といった研究目標の中から,その時々の状況で最も実現可能性が高いものを選択していく。 また,2021年度には控えていた学会発表を積極的に行い,研究課題についての認知度を高め,より多くの研究者と良好な関係を築いていきたい。さらに,現在共同研究を行っている研究者たちとは,ビジネスコミュニケーションツールであるSlackを活用してカジュアルな雰囲気の議論を継続的に積み重ね,ファイル共有サービスDropboxを活用して研究知見の共有を進めていき,協働をより活発なものにしていく。これらのことによって,2022年度が最終となる本研究課題が,その後のより充実した研究課題に発展していくように取り計らっていく。 さらに,2022年度は,研究者以外とのコミュニケーションに力を入れていく。具体的には,ホームページやブログを通じて研究関連の情報を発信していくほか,民間調査会社のアンケートモニターを活用して調査をオンライン化し,一般の幅広い層からデータを収集していく。このような工夫を積み重ねることで,うつ病教育に対する世間のニーズをきめ細やかにくみ取っていき,研究課題内で作成する教育コンテンツの訴求性を高めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染再拡大に伴って国内外すべての出張計画をキャンセルしたことと,共同研究者とのミーティングに十分な時間が割けずオンライン調査の実施を見送ったことにより,多額の「次年度使用額」が発生した。 2022年度については,行動制限が若干緩和され,国内学会も対面開催予定のものが増えていることから,研究遂行に必要な旅費を順調に執行できると予測される。また,2021年度中にペースダウンはしながらもオンライン調査の実施に向けた段取りを徐々に整えていたため,2022年度中にはオンライン調査の実施に踏み切ることができ,そのための調査委託費も執行できる見込みである。さらに,うつ病の教育コンテンツ作成を外部業者に委託して,教育コンテンツの質向上と研究業務の効率化を図っていく。この他にも,研究アシスタントの雇用など業務の円滑化につながる措置を積極的に実行し,予算を有効活用していく。
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