本研究は、指示意図を解釈する語用論的処理「指示対象付与」に着目し、社会的場面(他者のやりとり場面)における幼児の指示対象付与方略の発達過程を、行動実験によって解明することを目的とした。本研究の特徴的な点は、他者が行う発話解釈の適切性を幼児が第三者的視点からどのように判断(評価)しているのかを検討している点であり、この検討を行うために選択的信頼というキーワードを取り入れることとした。 最終年度は、昨年度に得られた「幼児は、他者間コミュニケーションにおける「曖昧さ」や「ズレ」を第三者的視点から「検出」することは可能」というデータを整理・吟味した。具体的には、①幼児は、文脈をふまえて曖昧な発話を適切に解釈する他者を選好(信頼)するか、②関連性がない発話であっても抑揚などの要因(ユーモラスな発話)によって他者の選好の程度が変化するかを検討した。 その結果、発話解釈の適切性を第三者的な視点から評価する能力は3-4歳児でもある程度みられ、明示的に評価できるようになるのは5-6歳児であることが示された。また、3-4歳児でも、文脈に応じた適切な解釈を行わない他者より適切な解釈を行う他者から選択的に学習をすることが示された。さらに、適切でない解釈を行う2名の他者(真面目に答える/おどけた口調で答える)を情報提供者として比較した場合、答える際の抑揚などの影響は選択的信頼には影響しないことが示唆された。これらの結果から、二者間のコミュニケーションがかみ合っているかどうかを第三者的に評価する能力は幼児期において既に獲得しており、さらにはコミュニケーションがかみ合っていない人よりかみ合っている人から選択的に学習する可能性を示唆している。
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