本申請課題の目的は,報酬や罰に対する養育者と子どもの反応傾向を強化学習モデルに基づいて推定し,それらの親子での類似性と,養育者の反応傾向が子どもの心理的適応に及ぼす影響を明らかにすることであった。 最終年度は,認知課題を用いたオンラインでの調査・実験の実施に向けて,調査と実験プログラムの接続を行った。Aberg et al. (2016) の認知課題と同様の課題作成を試みたが,調査フォームとの接続のための調整に時間を要したため,調査・実験の実施が最終年度の後半となった。また調査にあたっては,昨年度までに得られた知見に基づき,尺度を用いた報酬/罰感受性と養育行動の測定も行うこととした。 調査・実験では,オンライン調査会社の中高生の子どもを持つ母親モニターに,子どもとの2名1組での調査参加を依頼し,208組,計416名のデータを取得した。まず母親に対して尺度を用いて報酬/罰感受性およびストレス反応,養育行動の回答を求め,次に中高生の子どもに対しても,報酬/罰感受性とストレス反応を測定する尺度への回答を求めた。その後,Aberg et al. (2016) に基づく二腕バンディット課題を,母親,子どもの順に実施した。 自己報告による親子の報酬/罰感受性とストレス反応の関係について,APIMを用いて検討した。その結果,母親の罰感受性が,母親自身のストレス反応に加えて,子どものストレス反応とも正の関連を持つことが示された。一方で,子どもの罰感受性は,子ども自身のストレス反応とのみ正の関連を示した。また,親子の報酬感受性,罰感受性,ストレス反応はそれぞれ正の相関を示した。つまり,母親が罰に反応しやすいほど子どもも罰に反応しやすく,さらに子どものストレス反応も強くなりやすいことが示唆された。特に子どもの心理的適応のためには,母親の罰への反応しやすさに着目することが重要であると考えられる。
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