研究課題/領域番号 |
20K14231
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
富田 望 早稲田大学, 人間科学学術院, 講師(任期付) (30823364)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社交不安症 / 注意の偏り / 自己注目 / メタ認知的信念 / ドット・プローブ課題 |
研究実績の概要 |
本研究計画の基盤にある「メタ認知理論」においては、注意の向け方に関するメタ認知的信念が自己注目を含む注意の偏りや社交不安症状に関与していると考えられているが、これらの関連性を実証的に検討した知見は少ない。そこで、今年度は、社交不安症状、表情への注意の偏り、注意の向け方に関するメタ認知的信念の関連性を実験研究により検討した。大学生55名を対象に、社交不安症状および肯定的/否定的なメタ認知的信念を測定する質問紙尺度と、注意の偏りを測定するドット・プローブ課題を実施した。その結果、社交不安高群において怒り顔および笑顔への注意の偏りが示された。また、怒り顔への注意の偏りと社交不安症状の関連性は、否定的なメタ認知的信念により完全媒介されることが示された。一方で、否定的なメタ認知的信念と社交不安症状の間に注意の偏りは媒介していなかった。本研究は横断研究であり因果関係を推定しているに留まっているため、今後の研究において注意の偏りに介入を行い社交不安症状の変化を検証する際に、メタ認知的信念の変化が媒介しているかどうかを明らかにする必要がある。 上記の限界点はあるものの、今年度の成果は、注意の偏りへの介入が社交不安症状の改善に奏功する上で、メタ認知的信念が重要な役割を有している可能性を示唆する知見の1つとして位置づけられる。そのため、本研究計画の最終目標である「バーチャルリアリティを用いた自己注目の介入プロトコル」を作成する上でも意義のある成果と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの影響により、当初計画していた脳機能、心拍、眼球運動などの指標を測定する研究を行うことはできなかったものの、本研究計画の最終目標である「バーチャルリアリティを用いた自己注目の介入プロトコル」を作成する上で意義のある知見を得られたことから、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、自己注目の生起を予測する環境中の刺激を明らかにするために、EMA(Ecological Momentary Assessment)という方法を用いた研究を行う。社交不安傾向を有する大学生15名程度を対象に、EMAを用いて、日常生活下における社会的場面の状況、その際の自己注目の程度、自己注目の結果として生じる不安の程度を測定する。EMAの実施期間は2週間とし、1日3回メールを送る。本研究により、どのような社会的場面に対して自己注目が生じやすいのかを明らかにする。 第2に、社交不安傾向を有する大学生30名を対象に、眼鏡型視線追跡装置と心拍を計測するウェアラブル端末、脳機能を測定する2チャンネル光トポグラフィー (NIRS) を装着した状態で、3分間×2回のスピーチ課題を実施する。スピーチの際には、自己注目の程度を0-100で評定するVisual Analog Scale(VAS)への回答を30秒に1回の頻度で求める。スピーチ中の瞬目数、瞳孔径、スキャンパス(視線の移動距離)、心拍、右前頭極の脳活動を測定し、自己注目の程度を予測する生体情報を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度において新型コロナウイルスの影響により実施できなかった研究を、次年度において実施するため、当該助成金が生じた。研究では実験参加者の瞬目数、瞳孔径、スキャンパス(視線の移動距離)、心拍、脳活動を測定するため、主な使用計画としては、膨大な生理データを解析する研究補助者に対する人件費、実験参加者に対する謝礼、視線追跡装置や心拍計測を行う機械を購入する費用を考えている。
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