最終年度では、聴衆のいるスピーチ場面を再現したバーチャルリアリティ(VR)空間の中で自己注目の程度を定期的に評定するシステムを開発した。そして、自己注目の変動に合わせて、スキャンパス、注視回数、瞬目数が変動するのかを明らかにするための実験研究を行った。このVRシステムは、スピーチ評定者が映ったVRを視聴しながらスピーチ課題を6分間行い、30秒に1回の頻度で、どの程度自己注目をしていたかを呈示された画面に従って0―100で回答するプログラムになっている。また、スキャンパス、注視回数、瞬目数を計測できるVRゴーグルを用いて、VR視聴中の眼球情報と自己注目度の関連性を検討した。現時点で収集した60個のデータについて途中経過の解析を行った結果、対象者の社交不安傾向に関わらず、スピーチ中に自己注目が高まるほどスキャンパスが短くなることが示された。また、社交不安傾向が高い者において、スピーチ中に自己注目が高まるほど注視回数が減ることが示された。一方、瞬目数については、自己注目の変動と有意な関連は示されなかった。以上より、スピーチ中におけるスキャンパスと注視回数を計測することで、社会的場面における自己注目状態をリアルタイムに推定できる可能性が考えられた。 研究期間全体を通して、他者の視線や他者からの評価を知覚される状況をVRのシステムに組み込む必要性があることを生態学的経時的評価法によって明らかにし、その知見に基づいて、VRを用いた自己注目のリアルタイム評価システムを開発した。また、社交不安症における自己注目状態をリアルタイムで検知・フィードバックするVRシステムを開発し、フィージビリティスタディを実施した。
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