研究課題/領域番号 |
20K14250
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齋藤 五大 東北大学, 文学研究科, 助教 (70823772)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | セルフタッチ錯覚 / 身体的自己 / 多感覚知覚 / からだの錯覚 / 身体所有感 |
研究実績の概要 |
セルフタッチ錯覚では、錯覚の体験者が閉眼のまま自身の一方の手でゴム製の偽の手を触れると同時に実験者にもう一方の手を触れられる。このときに触れる手と触れられる手の触覚刺激が同期すると、錯覚体験者の多くはあたかも自分で自分の手を触れたように感じる。本研究の目的は、セルフタッチ錯覚パラダイムを用いて、身体周囲の空間において多感覚入力に依存して生じる身体的自己のメカニズムを調べることである。前年度までに、セルフタッチ錯覚の時間および空間特性に関わる実験をそれぞれ実施した。時間特性に関わる実験では、被験者が右手人さし指でゴムの指を押してから両手人さし指に触覚フィードバックを受けるまでの時間が約300ミリ秒以上延するときに、セルフタッチ錯覚の評定値が有意に減衰することを示した。空間特性に関わる実験では、被験者が両手を背中に回して上側の手で実験者の手をなでると同時に下側の手を実験者になでられると、被験者が背中に回した自分の一方の手で自分のもう一方手に触れたと感じるだけでなく指や腕が伸びたと感じることを示した。本年度は、周囲の空間や自己の身体に対する知覚の歪みを特徴とする不思議の国のアリス症候群(AIWS: Alice in Wonderland syndrome)の被験者にセルフタッチ錯覚実験を実施した。実験の結果、AIWSの被験者はセルフタッチ錯覚誘導中に手の所有感だけでなく手の巨大化も報告した一方、統制群の被験者は従来通り手の所有感のみを報告した。これらの結果は、AIWSの被験者の身体イメージが統制群の被験者に比べて触覚入力に応じて柔軟に変容し、触れる手と触れられる手の間の空間的な隔たりが手の巨大化によって補完されたことを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた健常者に加えて不思議の国のアリス症候群の被験者に関する実験的知見も得られたため、おおむね順調に進展しているとした。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度が最終年度にあたるため、これまで得られた知見の論文化を中心に本研究課題全体をまとめる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により当初計画の遅延・変更が生じた。次年度、当該助成金を主に追加実験、学会参加、論文投稿に充てる。
|