研究実績の概要 |
本課題は、乳児期の聴覚-運動感覚の統合過程においてアロスタシス制御 (予測的なホメオスタシスの維持) が行われている可能性について検証することを目的とした。私たちの多様な音声生成には聴覚-運動系の相互作用が必要不可欠である。これまでに乳児期早期の時点ですでに聴覚―運動の統合に基づく学習を開始している可能性は示されているものの、その際の神経生理学的なプロセスについてはほとんど知見がない。そのため本課題では、乳児期早期の児を対象に、自発発声および四肢運動を聴覚フィードバックし、その際の行動・生理活動の変化のプロセスや両者の相互作用に着目した検討を進める。 今年度は、COVID-19の感染拡大のため、実験室での新規データの取得は実施せず、既存データの再分析および、その成果報告を中心に進めた。再分析については、申請者が2018-2019年度に取得したデータ(生後3ヶ月児を対象に、自発的な四肢運動を四肢運動可聴化用センサによってフィードバック し、その際の四肢運動および抹消生理状態を測定した40名分のデータ; 新屋ら, 2019 日本赤ちゃん学会)を対象とした。 上記データの分析により、3ヶ月児は四肢運動の可聴化経験を通じて、運動頻度を増加させることに加え、聴覚フィードバックの直前のタイミングにより選択的に心拍数を増加させ始め、心拍数増加のピーク強度を徐々に抑制することがわかった。この結果は、聴覚-運動相互作用の出現には、心血管のホメオスタシスを維持するための予測的な調節が暗黙のうちに行われていることを示唆している。このような予測的な調節は、より洗練された目標志向的行動や音楽的行動の発達基盤となっている可能性がある。本成果は、国際乳児学会において発表し(Shinya, Oku, Watanabe, Taga, & Fujii, 2020)、現在、国際学術誌に論文を投稿中である。
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