本研究では,2色が時間的に変化するフリッカ刺激を用い,心理実験と脳活動計測から視覚情報がもたらす快・不快感の生成機序を明らかにすることを目的とした。従来の色覚モデルに基づき,視覚情報処理の異なる段階を反映する複数の色空間から色を選定した。心理実験の結果,均等色空間における2色の色差が大きいほど不快感が強まる傾向が見られた。ただし,2色のうち1色が彩度の高い赤色である場合には,色差に依存せず一貫して強い不快感が喚起されることを見出した。一方で,反対色メカニズムを反映するDKL色空間では,色差や色相による不快感への影響は見られなかった。以上の心理実験で不快感の程度に差が見られたフリッカ刺激を観察している間の脳活動をfMRIで測定したところ,心理実験で測定した不快感と高次視覚野を含む後頭部の脳活動には正の相関があり,色差が大きいほど脳活動も増大することや,フリッカ刺激に彩度の高い赤色が含まれる場合には,そうでない場合よりも脳活動が大きくなることがわかった。以上の実験結果から,時間次元における不快感はカテゴリカル色知覚に関わる高次視覚野で生じており,鮮やかな赤色と特異的に結びつくことが示唆された。
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