研究課題/領域番号 |
20K14258
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
富松 江梨佳 九州大学, 芸術工学研究院, 特別研究員 (20584668)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 時間知覚 / 能動的時間 / 受動的時間 / 時間錯覚 |
研究実績の概要 |
本研究では、能動的な操作感が時間の長さの知覚に与える影響を、心理物理学的手法を用いて調べ、その影響の生じる仕組みについて検討する。まず、単純な刺激を用いて、操作感がないとき、物体の運動知覚や自己運動の知覚が時間長の知覚に影響するかどうかを検討する。それを土台として、能動的な操作感と外的変化との結びつき方が時間知覚にどのような影響を及ぼすかを詳細に調べることにより、自分で操作しているという認識が時間知覚に与える影響について検討する。これらの実験結果から、我々の作り出す時間という感覚がどのようにして生み出されているのかを考察する。本年度は、能動的な操作感がないとき、物体の運動知覚や自己運動の知覚が時間長の知覚に与える影響について検討した。ドットパターンが次々に変化することによって全体的な位置は変化しないが運動知覚は生じるような刺激を作成した。この刺激を観察したとき、パターンが変化しない刺激よりも提示時間が長く見積もられた。この結果を基にして、刺激パターンの変化回数に着目した実験に着手した。変化回数と時間知覚の関係について、ドットパターンが継時的に次々と変化する刺激と、周波数が次々と変化する刺激を作成しデータの取得を行った。また、移動感と受動的な時間の長さの知覚の関係を調べる実験を行った。視覚的に提示した運動する刺激を観察してもらい、観察後に自己の移動感覚と刺激の提示時間の見積もりを回答してもらった。その結果、自己移動感の強度と時間の見積もりの値の間に相関が認められた。自己移動感が直接的に提示時間長の見積もりに影響を与えているかについては今後検討していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
操作感がないときに、視対象や自己の運動の知覚が時間長の知覚に対して影響を与えるかどうかについて実験心理学的手法を用いて調べた。周波数が変化する聴覚刺激を作成し、また、これまでに得られた知見をもとにして作成した運動知覚を生じさせる刺激を導入することによって、運動知覚と時間知覚との関係性について定量的に調べたデータが得られている。次年度に向けて新たな実験刺激の作成や実験計画および予備実験も行い、着実に研究を進めることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、操作感がないときに物体の運動知覚が時間長の知覚に影響するかどうかについて、実験心理学的手法を用いて調べる予定である。操作感のない場合かつ外的変化が知覚される場合の時間知覚を調べるために、物理的に運動する刺激に加えて、錯覚的な運動知覚や自己移動感を生じさせる刺激を用いる。静止画であるにもかかわらず運動を知覚できる運動錯視図形や、線運動錯視などを呈示し、その知覚的な呈示時間長を測定する。さらに、能動的操作と外的変化が時間知覚に与える影響を調べる予定である。まず、刺激呈示中に能動的操作を行う場合について検討する。例えば、刺激が呈示されている間ボタンを押し続けるように教示されたとき(すなわち、参加者が能動的操作を行うとき)とボタン押しをしないとき(すなわち、参加者が操作を行わないとき)とで測定される刺激呈示時間の知覚的長さに差が生じるかどうかを調べる。これによって、能動的時間と受動的時間における時間の長さの感じ方の違いを明らかにできる。その後、能動的操作と外的変化が一致する必要性について検討する。例えば、視覚刺激の場合、マウス等を能動的に動かす方向と刺激の運動方向が一致する場合と一致しない場合の知覚的時間長を比較する。聴覚刺激の場合、周波数が徐々に上がっていくもしくは下がっていく刺激に対して、上方向もしくは下方向にマウスを動かしてもらう。もし、能動的に刺激を操作しているという認識が時間知覚を伸長するならば、操作の方向と刺激の方向が一致する場合に時間知覚が長くなる。また、物理的には変化しないが、認知的・知覚的に変化する場合、能動的操作は影響するかどうかを検討する。一連の研究成果から、能動的な操作感が、時間の長さの知覚に与える影響を考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学会参加のための移動を取りやめたため、また、実験を比較的短時間で行えるものに実施の順番を入れ替えために差額が生じた。この分は次年度に繰り越し、学会参加費、差し替える前に予定していた実験に必要な参加者や物理測定補助者への謝金、および、差し替え前の実験に必要な機材の購入費として使用する予定である。
|