本研究は、渇望と呼ばれる現象はどのような学習により形成・維持されているのかという学術的問いのもと行なっている研究である。渇望は、特定の物質を摂取したいという我慢できないくらい強い欲求と定義される。本研究では、渇望と呼ばれる現象が、刺激間の関係の学習であるパブロフ型学習(古典的条件づけ) から刺激と反応間の学習である道具的学習(オペラント条件づけ)への転移であるPavlovian-Instrumental Transfer(PIT)によって生じているかどうかを検討し、その問題反応の消去可能性を探る。これまでの研究では、学習の転移の検討も行われてきているものの、ヒトを対象としてその原理の適用範囲を探る研究は 少ない。渇望におけるPITの作用機序を明らかにし、更にその原理を利用した解決案を提示することは、応用研究として見ても有益な知見を提供するものとなる。 今年度は、渇望関連刺激の提示により、渇望対象の物質を求める特異的な道具的反応が影響を受けるかについて検討を行うと共に、チョコレート渇望を測定する尺度であるAttitudes to Chocolate Questionnaireの日本語版を作成した。原版は英語であり、追試、ドイツ語版、オランダ語版では同様の因子構造が見られているが、これまでの研究は全て欧米圏で行われている。そこで本研究では、追試および他言語版と同様の因子構造であるかどうかを確認すると共に、妥当性と信頼性を検証した。その結果、従来の研究で舞台となっていた欧米圏と食物渇望の様相が異なる日本においても、チョコレート渇望の次元が同様であることが示された。
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