研究課題
本研究ではアイトラッカーを用いた注視時間の分析により、認知症患者の出来事の記憶について非言語的な指標により評価した。対象はアルツハイマー型認知症患者12名と健常者14名とした。刺激として60秒程度の動画を用いた。内容は2名の人物が箱に入ったくじ券を交互に引き、一方が当たりくじを引いて喜び、もう一方がはずれくじを引いて落胆するというものであった。この動画を15分の間隔を空けて2回呈示した。1回目に呈示されたビデオの内容を記憶していれば2回目の動画呈示時において、くじ券を開ける前の時点で当たりくじを引く人物に対し注視時間が増加する「予測的視線」が見られると仮定した。その結果、2回目のビデオ呈示時において認知症群・健常群ともにくじを開ける直前の場面で当たりくじを引いた人物に対して予測的視線を示し、両群ともビデオの内容を記憶していることが明らかになった。一方2回目のビデオ呈示終了後に、当たりくじを引いたのはどちらの人物か言語的に尋ねたところ、認知症群は正答することができなかった。つまり認知症患者は自身が経験した内容を言葉で表現することが困難である一方で、出来事の記憶そのものは保持していることが示された。2022年度では、このくじ引き動画の刺激が1か月後の記憶保持を確かめるうえで有用かどうか、大学生10名を対象に検証を行った。その結果、およそ1か月の期間が空いても、くじを開ける直前の場面において予測的視線が確認され、この刺激を含めた実験デザインは長期的な出来事の記憶を評価するうえで有効であることが確認された。今後、認知症患者の長期的な記憶成績を評価するうえでも、本研究の方法論は有用である可能性が示唆された。
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精神科
巻: 42 ページ: 389-395