研究実績の概要 |
ラバーハンド錯覚(Rubber hand illusion, RHI)の発見により、成人を対象に身体所有感の生起メカニズムが盛んに検討されているが、その発達プロセスは未だ解明されていない。ラバーハンド錯覚の生起する際に、本物の手とラバーハンドとの間に時間的一致性・空間的一致性・解剖的一致性といった3つの制約(Botvinick & Cohen, 1998; Ehrsson et al., 2004; Tsakiris & Haggard, 2005)が存在することから、RHIは、視覚情報・触覚情報及び自己受容感覚情報の一致により、身体所有感が多感覚間統合を通して再構成され、ラバーハンドに移された現象であると認識される。本研究では、定常状態視覚誘発電位(SSVEP)を用い、多感覚統合による身体表象の発達を検討した。実験では、4ヶ月児と8ヶ月児を被験者とし、金属棒が手の甲に接触するフリッカ映像を観察させ、映像に同期して実際の接触がある条件と、まったく接触しないでSSVEP誘発量を比較した。結果の解析には、触覚刺激に注意を向けず視覚刺激を注視している試行のみを用いた。その結果、8ヶ月児において、触覚刺激なし条件と比べ、触覚刺激あり条件のSSVEP誘発量が高いことが判明されたが、4ヶ月児では、2つの条件のSSVEP誘発量に差がみられなかった。この結果から、多感覚入力を統合した身体表象は生後4-8ヶ月の間で発達することが示された。すなわち、身体所有感は生得ではなく、生後の多感覚経験によって発達することが示唆された。
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