研究課題/領域番号 |
20K14269
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
竹島 康博 同志社大学, 心理学部, 助教 (50755387)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視聴覚統合 / 同時性知覚 / 空間周波数 / 二重提示課題 |
研究実績の概要 |
2021年度は,視覚刺激と聴覚刺激の提示の同時性知覚において,視覚刺激に含まれる複数の空間周波数成分が与える影響についての検討を行った。これまでの研究から,低空間周波数刺激を提示した場合は,高空間周波数刺激を提示した場合と比べて聴覚刺激をより先行したタイミングで提示しなければ同時と知覚されないことが報告されている。この知見を基に,単一ではなく複数の空間周波数成分を持つ視覚刺激では,どのような提示タイミングで聴覚刺激とより同時に提示されたと知覚されるのかについて調べた。私たちが日常目にする光景には複数の空間周波数成分が含まれていることから,本実験はこれまでの研究よりも現実場面に近く,生態学的妥当性がより高い検討を行ったといえる。 本実験では,二重提示課題と呼ばれる課題を用いて視覚刺激と聴覚刺激の提示の同時性知覚について検討を行った。この課題は,視覚刺激と聴覚刺激が物理的に同時に提示されるペアと,様々なタイミングで提示されるペアを提示し,どちらのペアがより同時と感じたかを判断する課題である。この課題は,これまでの研究で用いられている同時性判断課題よりも認知的なバイアス等が混入しにくいという特徴がある。本課題を用い,低空間周波数刺激と高空間周波数刺激,およびこの2つの空間周波数成分が合成された混合刺激が聴覚刺激の提示と主観的に同時と判断されるタイミング(主観的同時点:PSS)を調べた。その結果,二重提示課題でもこれまでの研究と同様の低空間周波数刺激と高空間周波数刺激とのPSSの差異が観察された。一方,混合刺激のPSSは低空間周波数刺激よりも高空間周波数刺激のPSSと強い相関が示された。したがって,本実験により混合されている空間周波数成分のより高い成分の方が聴覚刺激との提示の同時判断には強く関与することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も新型コロナウイルスの感染拡大の影響が強く残ると予想されていたため,年度当初から準備や研究遂行ペースの調整を行っていた。そのおかげで,予定していた実験の実施および結果の解析を年度内に完了することが出来た。また,2020年度に実施した研究についても論文化を行い,目標としていた年度内の採択も達成することができた。学会参加による情報収集についても,全てオンラインでの参加に留まってしまったものの,同分野の研究者と意見を交わすことで必要な程度には達成できたと考えられる。 以上の理由から,本研究課題の2021年度の進捗はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度が遂行の最終年度であるため,予定している1つの実験の実施と,本研究課題全体のまとめを実施する予定である。 実験については,当初の予定から一部変更して,低空間周波数刺激と高空間周波数刺激,およびこれらの成分の合成刺激について,視聴覚統合によって生じる錯覚の生起頻度の違いについて検討を行う予定である。2021年度の実施した研究から,2つの空間周波数成分が合成された刺激では,同時判断においてより高い成分の方が強く関与することが示された。この影響が,同時判断だけでなく視聴覚統合による錯覚にも波及するのかについて調べる。この検討を通して,視覚刺激の空間周波数による処理速度の違いが視覚刺激と聴覚刺激の統合過程全体の中でどのように寄与していくのか,その諸相を明らかにすることに繋がると考えられる。なお,本検討には同時判断と同様に視覚刺激の空間周波数の違いが影響を与えることが明らかとなっている分裂錯覚(ダブルフラッシュ錯覚)を用いる予定である。 また,2021年度に実施した研究についてはまだ学会発表も行っていないので,2022年度中には成果発表を行う予定である。なお,この研究については解析まで完了しているものの,解析に用いた手法についてまだ理解が不十分な部分がある。学会発表を通してこの部分の理解を深め,論文としても成果発表が出来るように進めていく予定である。 研究課題全体の総括として,2022年度に実施する研究の結果と2021年度の実施した研究の結果との対応についてまとめることも予定している。2022年度に実施する研究の結果が2021年度に実施した研究と直接的に対応するのかを確認し,空間周波数による同時性知覚への影響が錯覚現象にそのまま波及するのか,その間に何らかの補正プロセスが存在するのかをまとめることで,本研究課題の総括とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
英文校正費や論文の投稿費の支出が予想よりも少なかったためである。2021年度の交付額には2020年度からの未使用額が入っていたためこれらの予算に使用する予定であり,実際に一部はこれらの費目として支出している。しかし,査読が予想よりも少ない回数で終了し,また採択が年度の終盤であったために投稿費の支出が2022年度にずれこんでしまった。 未使用額については,まず2022年度にずれ込んでしまった投稿費の支払いに充てる。また,研究代表者の所属が変わり,研究遂行に必要な機器を一部購入する必要が出てきたため,その費用としても使用する計画である。
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