研究課題/領域番号 |
20K14272
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
樋口 洋子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 訪問研究員 (40793310)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 潜在学習 |
研究実績の概要 |
われわれは、自分をとりまく世界の情報を知らず知らずのうちに学習している。この意識の伴わない学習を、意識的な学習(顕在学習)と対比して、潜在学習と呼ぶ。潜在的に獲得された学習内容は場面特異的に素早く発露し、多くの場面でわれわれの行動の効率化に役立つ。その反面、型にはまった発露であるがゆえに融通が効きにくい、という特徴もある。潜在的に獲得した学習内容を場面に応じて柔軟に利用可能な状態に変化させることはできるのだろうか。本研究では、学習内容を意識的に思い出させること、すなわち顕在的再活性がこの変化を引き起こすという仮説を、実験的に検証する。 1年目にあたる令和2年度は、潜在的に獲得した学習内容の顕在的再活性による変化を検討するための心理物理的実験手法の開発に着手し、潜在学習を引き起こすパラダイムを確立することができた。実験参加者に「たくさんの妨害刺激のなかにひとつだけある目標刺激を探す」という探索課題を課し、そのなかでいくつかの同じ配置の探索画面を繰り返し呈示した。すると、ランダムな配置に比べて、繰り返される配置ではより早く目標刺激を見つけられるようになった。この結果は、同じ配置が繰り返されるなかで、妨害刺激と目標刺激の位置関係が学習されたことを示唆している。このとき参加者は、同じ配置の繰り返しには気がつかず、何回も見ていたはずの配置を再認することもできなかった。したがって、探索課題における配置の学習は、参加者が気がつかないうちに、すなわち潜在的に生じていたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は、潜在的に獲得した学習内容の顕在的再活性による変容とその神経基盤の解明である。1年目にあたる令和2年度は、学習内容の顕在的再活性による変化を検討するための心理物理的実験手法の開発に着手し、潜在学習を引き起こすパラダイムを確立することができた。 実験参加者に「たくさんの妨害刺激のなかにひとつだけある目標刺激を探す」という探索課題を課し、そのなかでいくつかの同じ配置の探索画面を繰り返し呈示した。すると、ランダムな配置に比べて、繰り返される配置ではより早く目標刺激を見つけられるようになった。この結果は、同じ配置が繰り返されるなかで、妨害刺激と目標刺激の位置関係が学習されたことを示唆している。このとき参加者は、同じ配置の繰り返しには気がつかず、何回も見ていたはずの配置を再認することもできなかった。したがって、探索課題における配置の学習は、参加者が気がつかないうちに、すなわち潜在的に生じていたことが示唆された。今後はこの手法をベースに潜在学習の顕在的再活性を促すパラダイム開発を進めていく予定であり、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に確立した潜在学習を引き起こす手法をベースに、潜在学習の顕在的再活性を促すパラダイム開発を進める。近年、関連研究では「配置の記憶テストを行う際に(見覚えがあるかを聞く際に)、 学習時の眼球運動を再現させると、その配置を見たことを思い出す」という現象が報告されている。このことから、配置の再認時に眼球運動を適切にガイドすることで、潜在的に学習した配置を顕在レベルに引き上げることができると考えられる。今年度は、記憶テストにおいて眼球運動をガイドする手法の導入により、配置の潜在学習の顕在的再活性を誘導することを目指す。この実験系の確立のために60名程度の実験参加者からデータを取得する。これらのデータを国内外の学会において発表し、改良のための意見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度はCOVID-19の感染拡大の影響により、参加を予定していた国際・国内学会の現地開催が中止となり、旅費の使用がなくなった。また、学会以外の海外出張もすべて取りやめとなったこと、実験参加者のリクルートが困難だったことなどが理由で、次年度使用額が生じた。令和3年度は、昨年度よりも旅費や人件費を使用する予定であるが、COVID-19の感染拡大の影響で余剰が発生する場合には、プロジェクトのために必要な眼球運動測定装置など、備品に研究費を使用し、研究遂行の円滑化をはかる。
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