研究実績の概要 |
今年度に得られた結果は次の通りである. (1) 補完多重ポリログ関数の2-パラメータ変形について, 一般化された高さの概念を導入することで, 一般化された和の母関数を構成し,それが満たす$q$-差分方程式について考察した. 昨年度の研究においては, $q$-超幾何関数${}_2\phi_1$ の満たす基本的公式である, Heineの変換公式が重要な役割を果たしたが, 今年度の研究においては, Heineの変換公式の一般化である, 多次元底つき超幾何級数に対するEuler変換公式(Kajihara-Noumiの双対変換公式)が, その代わりを果たした. 得られた結果において, $p$ → 0 の極限をとると, Li-Wakabayashi(2019) による結果, すなわち, 補完$q$-多重ポリログ関数の重さ, 深さ, 一般化された高さを固定した和の母関数が, $q$-超幾何関数${}_{r+1}\phi_r$ で表されるという結果を復元することができる. (2)昨年度導入したルート系ゼータ関数の$q$-類似について,それが満たす関数等式を考察した. この関数の, Weyl群の放物型部分群の右剰余類の完全代表系に関する和の積分表示とKronecker関数の満たす基本公式であるFay恒等式から, A_2, A_3, B_2, G_2型のゼータ関数の$q$-類似の満たす関数等式を導出した. 特に$q$ →1 の極限をとると, 通常のルート系ゼータ関数の満たす関数等式が得られる. また, ルート系ゼータ関数の2-パラメータ変形については, 昨年度の結果(A_1, A_2, A_3型のWitten体積公式の2-パラメータ変形への一般化)を任意のルート系に拡張することができた. 鍵となったのは, Macdonald(1972) の定理(彼は, この定理からルート系に付随するPoincare多項式の因数分解公式を導いた)である.
|
今後の研究の推進方策 |
多重ポリログ関数の2-パラメータ変形の和の母関数については, それが満たす性質をさらに詳細に調べていきたい. そのためには, 多重ポリログ関数の2-パラメータ変形が満たす(2通りの)シャッフル積公式や接続公式について研究を進めていく必要があるように思われる. ルート系ゼータ関数の$q$-類似については, 今年度得られた関数等式のさらなる一般化および応用について考察していきたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度も, 新型コロナウイルスの流行の影響で, 当初予定していた, 研究集会参加や研究打ち合わせのための出張がほとんどできなかった. 来年度においては, 今年度使用できなかった分を出張旅費に当てることを検討している.
|