研究課題/領域番号 |
20K14298
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
杉山 真吾 日本大学, 理工学部, 助手 (70821817)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Dirichlet L関数 / 零点 / low-lying zero / ランダム行列 / 密度予想 / 重みつき密度予想 / one-level density |
研究実績の概要 |
筆者は前年度に、L関数の族の零点(low-lying zero)の密度をL関数の特殊値の重み付きで考察し予想を提起した。特にヒルベルト保型形式の対称べきL関数の零点密度の明示公式を与え、L関数の特殊値の重み因子が中心値のときに限り密度関数が変化するという現象を見つけた。本年度は筆者の予想を確かめるべく研究を進め、この現象がディリクレL関数(GL(1)の保型L関数)の族に対しても起きるということを見つけた。本研究ではモジュラスが素数の非自明指標のディリクレL関数からなる族を考察し、重み因子としてはディリクレL関数の特殊値の絶対値の2乗を採用した。本研究により、重み因子が中心値の時に限り密度関数が通常のものから「ガウス型ユニタリーアンサンブルに従うランダムエルミート行列の相関関係関数」に変化するということが判明した。特に、ディリクレL関数の族の場合には筆者の予想は正しいことが明らかとなった。また、Fazzariは中心値の重みつき零点密度を記述する密度関数の明示公式を予想したが、本研究の成果はその予想とも合致することが分かった。本研究はAde Irma Suriajaya氏(九州大学)との共同研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筆者は前年度に保型L関数の族の重みつき零点密度に関する現象を予想し、本年度はディリクレL関数の族の場合に筆者の予想が正しいことを証明した。証明方法は前年度のジャッケ-ザギエ型跡公式を用いるものとは異なり、セルバーグの捻り2次モーメントの公式を用いた。このように証明方法が異なるにも関わらず、計算の途中式で似た項が現れることも判明し、非常に興味深い現象を見つけることができた。本研究はL関数の特殊値のモーメントと零点を同時に研究していると解釈できるので、両者を結び付ける契機となる。重みつき密度とランダム行列理論の比較もL関数の理解をさらに深めることにつながり、このことは非常に意義深い。前年度はL関数の族がシンプレクティック型の場合に変数つきの重みつき密度を考察したが、本年度はユニタリー型の族について変数つきの重みつき密度を考察し、明確に記述することができた。本年度の成果はユニタリー型の族の場合に初となる例を与えている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒルベルト保型形式以外の保型形式のL関数および跡公式の研究を推し進め、さまざまな保型L関数の零点密度への応用を検討する。本年度のように、パラメーター付き跡公式に拘らず、はたまた分野にも拘らず、さまざまな手法を用いることを検討する。本研究で扱っていないディリクレL関数の族についても筆者の重みつき密度予想が正しいかどうか検証し、筆者が立てた予想の傍証を得ることも目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は出張が少しできたが、コロナ禍により思うように出張ができなかった。出張の予定であったがキャンセルせざるを得ない状況もあった。海外出張による研究討議は依然としてできず、国際研究集会を開く予定もあったが延期した。状況にもよるが、次年度こそ国際研究集会の開催および出張による研究討議をおこないたいと考える。
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