研究課題/領域番号 |
20K14301
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 桃成 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (10824708)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 代数曲線 / 超特異曲線 / 超特別曲線 / 計算代数 / 暗号応用 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究実績としては,まず,原下秀士氏(横浜国立大学),Everett Howe氏との共同研究で,楕円曲線のファイバー積として定義される種数4の曲線クラス(Howe曲線)に着目し,超特別Howe曲線の同型類を高速に列挙するアルゴリズムを開発した.アルゴリズムを計算機上で実行することで,11以上200以下の素数について,超特別Howe曲線の同型類を全て決定した.また,11以上20000以下の全ての素数について,超特別Howe曲線が存在することを示した.この結果は国内外で高く評価され,2020年6~7月に開催された査読付き国際会議ANTS-XIVに採択されるとともに,2020年10月に開催された国際研究集会supersingular2020(RIMS共同利用)における招待講演にて発表した. 次に,池松泰彦氏(九州大学)らとの共同研究で,超特異楕円曲線間の同種写像の高速計算法を開発し,暗号分野への応用可能性を示した.結果をまとめた論文は2020年10月に査読付き国際会議APKC2020に採択された. また,神戸佑太氏(埼玉大学)らとの共同研究では,構成的Deuring対応問題と呼ばれる,超特異楕円曲線に関連する計算問題を解くための主要なツールであるKohel-Lauter-Petit-TignolアルゴリズムをフリーソフトウェアSageに実装した.実装結果をまとめた論文は2021年3月に開催された査読付き国際会議ICMC2021に採択された. その他として,本研究の予備的研究でこれまで得られていた結果をまとめた論文3件が,国際雑誌に掲載が受理された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020~2021年度の研究計画では,申請書に記載の通り,(課題1A)超特異曲線の存在性の証明,および,(課題2)超特別曲線の(非)存在性の決定・数え上げ,を並行して行うことを計画していた.また,計画通りに進まない場合,同種写像暗号分野での超特異曲線に関する課題の解決など,といった,本研究と関連の深いテーマを検討していた. (課題1A)に関して,応募者らは既存研究において,楕円曲線のファイバー積として種数4の曲線クラスを構成し,その中に超特異曲線が必ず存在することを示した.そこで2020年度当初は,種数4の場合に類似して種数5の超特異曲線を実現することを検討し,まず計算機上でデータを収集することを計画した.しかし,同種写像計算の困難性などから,大きい標数に対するデータの収集が困難であることが判明した.そこで当初の計画を変更し,(1)種数5の曲線を別の方法で実現すること,(2)上記課題2に注力すること,および,(3)同種写像計算の高速化および関連する暗号応用の研究を行うこと,とした. (2),(3)については,研究実績の概要に示したように,順調に研究が進展している.(1)については,種数5の曲線クラスとして,標準埋め込みによるモデル(射影4次空間における3つの2次曲面の完全交叉)に着目し,その平面曲線モデルの定義方程式を明示的に与えた(arXiv:2102.07270).この曲線クラスに超特異曲線が存在するか否かは2021年度以降に考察する予定である. 以上のように,2020年度当初に計画した二つの課題(課題1A,課題2)のうち,課題1Aは研究方法に変更が生じたためやや遅れが生じているが,課題2は順調に研究が進展している.また,本研究で得られる超特異曲線の暗号応用に向けた課題についても順調に研究が進展している.これらの理由から,本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究成果を受けて,今後はまず種数5の超特異曲線あるいは超特別曲線の(非)存在性の決定に取り組む.2020年度に得られた,種数5の曲線の明示的な構成法を用いることで,超特異曲線や超特別曲線の(非)存在を明らかにする.また,超特別曲線(種数4,5)については,これまでに得られている,同型類を数え上げるアルゴリズムの改良などにも取り組む.並行して,2020年度に引き続き,超特異曲線や超特別曲線の同種写像暗号分野への応用に関する課題(超特異楕円曲線間の同種写像計算の高速化や,超特異楕円曲線における構成的Deuring対応問題を解くアルゴリズムの改良など)にも取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響と研究計画の一部変更により,研究費の使用計画を年度内に複数回練り直す必要が生じたためである.具体的には,新型コロナウイルスの影響により,参加を予定していた国際会議がオンライン開催となり,海外渡航旅費分が未使用となった.また,研究計画の一部変更により,当初購入を予定していた高い並列処理性能を持つPCについて,現状の研究の進展状況では急いで購入する必要はない,と判断した.このため,PCの購入は2021年度以降に変更し,2021年度以降に購入を検討していた他の物品を前倒しで購入したが,一部未使用額が生じた. したがって2020年度未使用額は,上記PC購入費用,あるいは旅費にあてる.新型コロナウイルスの影響で出張が難しい場合には,遠隔会議システム利用を中心とした設備備品費として使用したいと考えている.
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