正標数の代数幾何学における主要な課題の一つである,与えられた不変量をもつ正標数の体上の曲線が存在するか否かの決定,および存在する場合は数え上げや各曲線の構造決定について,主に研究に取り組んだ.また,これらの課題の解決に必須となる,計算代数幾何学のアルゴリズム群を整備した.加えて,正標数の代数曲線が応用されている,同種写像暗号について,安全性解析の研究に着手した. 具体的にはまず,種数5非超楕円Howe曲線の平面6次曲線モデルについて,明示的な定義方程式,特異点の個数・配置を決定した.うち一部は守谷共起氏(Birmingham大学)と共同で研究を行った.また,守谷氏,大橋亮氏(東京大学)と共同で,種数5非超楕円Howe曲線のうち超特別なものを全て列挙するアルゴリズムを構成し,計算機上の実行により,100未満の任意の素数に対し全列挙に成功した.特に,7以上97以下かつ13以外の全ての素数に対し,種数5超特別曲線が存在することが示された.これらの結果について,3件に分けて論文執筆済みであり,現在雑誌または査読付き国際会議に投稿中である. 他にも,自己同型群がKlein四元群より真に大きい種数4超特別超楕円曲線の数え上げ,同種写像暗号B-SIDHの解読に関する結果,などが得られており,それぞれ論文にまとめ国際会議または雑誌投稿中である. また,前年度以前に得られた結果をまとめた論文2件が,修正投稿を経て,学術雑誌Mathematics in Computer Scienceと日本数式処理学会誌「数式処理」においてそれぞれ出版された. 研究期間全体を通じて,正標数の代数曲線の存在・非存在の決定および数え上げ,関連する計算代数幾何学のアルゴリズム群の整備,さらには同種写像暗号の安全性解析への応用,の研究を行い,当初の予定以上に多くの研究成果(雑誌論文14件,学会発表27件)が得られた.
|